「著者に訊け!」トップへ


第17回
「ジャンルの壁を壊して貪欲に」

ゲスト/mayu-ge さん
著作/『赤の風景』 『終わりの食卓』


味わいのあるファンタジーの次作に、サイコホラー風味の現代小説を発表したりと、ファンの予想を裏切るユニークな作家、mayu-geさんが今回のゲスト。美しく読みやすい文章の秘密、ジャンル意識からの解放など、書き手と読み手の視点から縦横無尽に語っていただきます。

事前リサーチと取材をもとに構成しております。


〈その1〉 読んでもらってこそ価値がある

Web Publishing AZUSA(以下、――) いきなり核心に入ってしまって恐縮ですが、mayu-geさんのベクトルはファンタジーに向かっているとばかり思ってたんですよ。サイト「言葉の欠片(ことのはのかけら)」に掲載されている作品もファンタジーですし、私たちのところに持って来られた最初の作品も『赤の風景』でした。ところが、『終わりの食卓』には意表をつかれましたね。
内容はもちろんですが、「こんな作品が書ける人だったんだ」という驚きのほうが大きかった。

mayu-ge 今までファンタジーばかりを書いてきたので、自分の文章に偏りが出てきてしまっているなあ、と以前から感じていたんです。それで、ここでひとつ何か別のジャンルに挑戦してみよう、と。

 ――いきなり現代物でしょ。ファンタジーの書き手にとっては、それこそ“異世界”じゃありませんか。思い切りがいいというか大胆というか……。

mayu-ge 一言で言うなら、挑戦です。AZUSAさまなら、きちんと作品の良いところと悪いところを教えていただけるし、勉強になるだろうと思ったんです。もしも、「とても読めたものじゃないから、やめておきなさい」と言われれば、すっぱりと諦めるつもりで書いてみました。

 ――あ、評価くださり、ありがとうございます。でもね、どんな作品であれ、私たちは「やめとけば」なんて言いませんよ。理念というほど大袈裟なものではありませんが、そもそもWeb Publishing AZUSAの発足の動機は……(長くなるので以下略。※編集部註)。
 初稿には、無駄やもたつきはありましたが素材は光ってました。それに、登場人物も平凡なOLやサラリーマンなので、すっと作品世界に入れましたね。一般的な恋愛小説かと思って読んでゆくうちに、世界がひずんでゆくさまが怖かった。
 最初から、このような物語にしようと思ってたんですか。

mayu-ge とりあえず舞台は現代にするという事を決めて、そこからどういう話を書くかを考え始めたのですが、これが予想以上に難しかったです。推理小説を書くほどの頭はないし、恋愛小説は自分の思考回路からしてハッピーエンドになりそうになかったですし。
 結局、超能力まがいのものが出てくる奇妙な現代物になってしまいましたが、これが現時点での私の精一杯です。

 ――いやいや、初めての現代物とは信じられないくらい、風俗描写が堂に入ってましたよ。別ジャンルにチャレンジするとき、リアリティにこだわりすぎて、言わずもがなのことを書き込みがちになるものです。『終わりの食卓』には、それがありませんでした。オフィス、レストラン、ワンルームマンションの描写はもちろん、キャラクター造形まで、まさに現代社会の空気がリアルでした。
 筆歴はかなり長いとお見受けしましたが。

mayu-ge 初めて小説を書いたのは中学生のときで、以来、十年以上こつこつと紙と鉛筆を消費しています。まったく書かなかった時期も多少ありますが……。

 ――創作を始めるきっかけは何だったんですか。

mayu-ge これといったきっかけは覚えてないんです。いろんな本を読むうちに、自然と自分でも書くようになっていたと思います。

 ――話づくりは「自然と」でしょうけど、文章はそうはいかんでしょう。あの無駄のない文章はどのような過程を経て習得なさったんですか。

mayu-ge 自分でもよく分からないのですが……。というか、身についているのかどうかも分かりません。

 ――またまた。『赤の風景』の「プロローグ」の美しさといったらなかった。読んでいてぞくぞくしましたよ。言葉の選択が的確でした。漫然と書いているだけじゃ、ああはいきません。

mayu-ge あえて挙げるとすれば、大学で国語学を専攻していたので、その期間で勉強できたのではないかと思います。
 もっと遡ると、国語の教科書でしょうか。小学校の頃から国語の教科書が大好きで、新学期に新しい教科書をもらうと、その日のうちにほとんど読んでいました。基礎的な日本語の使い方が、意識しないうちに頭の中に入っていたのかもしれませんね。

 ――なるほど、小学生の頃からですか。「栴檀は双葉より芳し」を地で行っておられますな。いや、「好きこそものの上手なれ」のほうが正確かな。ことわざは置いといて。
 漢字の使い方にも独自のルールというか、好みというか、そういうものがありますか。

mayu-ge ルールというほどでもないですが、むやみに漢字に変換しないように注意はしています。難しい言葉でも安易に変換できてしまうのは、PCの短所。面倒でも辞書で調べるべきでしょう。その方が、確実に自分の力になります。

 ――そこですよ! 漢字変換のたやすさがPCの短所とは、よくぞ言ってくださいました。書く手間が省けるぶん、調べる手間を惜しむな。作家の実感ですな。ここ、メモするところですよ皆さん。って誰に言ってるんでしょうか私は。
では、漢字の選択もひっくるめて、作品中の言葉について思うところなどありますか。

mayu-ge できるだけ分かりやすい言葉を使うことです。普段、滅多に使わないような単語や、辞書を引かないと意味が分からないような熟語などは、極力使わないように気をつけています。
ただ、作品によっては雰囲気を出すためにあえて使うこともありますけれど。

 ――語彙が広がると、人にひけらかしたくなるのが常ですが、わかりやすさ重視というmayu-geさんの姿勢は昔からですか。

mayu-ge サイトを開設して不特定の人々に読んでもらえるようになってから、書く際の心構えは変わりました。自分が楽しむだけでなく、どうすれば楽しんでもらえるだろうという気持ちが強くなりました。
自分のこだわりも大切ですが、やはり小説は読んでもらってこそ価値があると思います。読みやすく、分かりやすく、面白い。そんな小説が理想です。


〈その2〉 一次創作、二次創作

 ――いまの言葉に、創作のすべてが詰まっています。ここでインタビューを終わってもいいくらい(笑)。
 サイトのお話が出ましたが、開設した意図を教えてください。

mayu-ge 自分の作品を見てもらいたいという衝動ですね。
 知識もろくにないくせに、本を買い込んで一から手作りで始めました。二年以上経った今でも、未だに手作りスタイルは変わっていません。
 仕事でHP作成ソフトを使っているのですが、便利な反面、余計なタグがてんこ盛りになって、手直しが面倒になったり重くなったりするので、それが嫌で……。こつこつとメモ帳にタグ打ちをしています。

 ――2004年6月のオープンから2年以上運営してらっしゃいますが、コンテンツの変化もあったでしょう?

mayu-ge コンテンツそのものは変わっていないのですが、比重に変化はありました。当初は二次創作がメインで一次の方がおまけだったのですが、現在では二次創作の方はストップしています。恐らく、今後も一次創作がメインになると思います。

 ―― 一次創作と二次創作では読者層もかなり異なるんですか。

mayu-ge 二次創作は、とにかくキャラクターに愛を注いでおられる方が多いですから、反応もキャラに対するものが多いです。同じ作品を好きな人が、一緒になって楽しもう、的な部分が大きいですね。文章が少々崩れていても、キャラに「萌え」たらそれでOK、みたいな部分はあると思います。
 それに比べて、一次創作の方は冷静に物語全体を批評してくださいます。「ここは、ちょっと意味が分かりづらい」とか「この場面は、すごく雰囲気が出てて良かった」とか。
 文章を書くという点では、やはり厳しい意見の方が参考になります。

 ―― 一次と二次。違いはあっても読者の反応があるというのは励みになるでしょうね。

mayu-ge 一言でも言葉をもらえるだけで有難いですが、一番嬉しいのは、「早く続きが読みたい」ですね。創作意欲が一気に沸いてきます。
 辺境の辺境でひっそりとやっているようなサイトなのに、足を運んでくださっているんだなあと、パソコンの前で正座して深々と頭を下げたい気分になります。

 ――サイト「言葉の欠片」には、読者からのプレゼントが一コンテンツになっていますが……。

mayu-ge 『黄昏人』の連載中に、何人かの方からイラストを頂きました。こちらからお願いしたものもあれば、先方から突然いただいたものもあるのですが、どれも本当に素晴らしいイラストで感激しました。
 サイトを運営していなければ、この嬉しさは味わえなかったはず。やっていて良かったと心から思いました。

 ――どこが、「辺境の辺境でひっそりやっているようなサイト」なんですか。これだけ反響があるのに。サイトを続けるコツってありますか。

mayu-ge 私もまだ二年ほどしか運営していないので偉そうな事は言えませんが、マイペースが一番いいんじゃないでしょうか。負担にならないように、のんびりと構えてやっていくべきだと思います。

 ――この「著者に訊け!」にご登場くださった方々も同じことをおっしゃっています。過剰な期待はせずマイペースで、ということなんでしょうね。創作サイトを運営していらっしゃる方にメッセージなどあれば、お願いします。

mayu-ge 自分の手で生み出した作品を自分の作った場所で発表する。これは、最高の幸せです。サイト運営は苦労も多いですが、可愛い作品たちが精一杯輝けるように頑張っていきましょう。


〈その3〉 読者に負担をかけない

 ――では、サイト方面から話を戻しまして、ちょっと立ち入ったことをいくつか伺います。
 まず、執筆環境から。主に執筆するのはどこですか。

mayu-ge 自宅のリビング。自分の部屋というものがないので……。

 ――ということは、ノートパソコン?

mayu-ge シャープのMebius。プリンタはキャノンのPIXUSです。

 ――ソフトは何を?

mayu-ge MicrosoftWord 2003を使用しています。使い心地は、特に悪いというわけではありませんが、変換が少々困りますね。
 よく奇天烈な変換で楽しませてくれます。おかげで単語を登録しまくっていますよ。

 ――Wordでなくては、という点はどこですか。

mayu-ge パソコンで書き始めてからは、ずっとWordを使っています。あるものでそれなりに満足してしまう性質なので、不満が爆発する事もないです。

 ――なるほど。リビングでタイピングというのも、それはそれで恰好よろしゅうございますな。夜中、むさくるしいリビングで――。

mayu-ge むさくるしくなんてないですよ(笑)。

 ――失敬。なんというか、こう、日常そのものという空間でですね、まったく違った世界を生み出してゆく快感というのは、たまらんでしょう。

mayu-ge そうでもないです。自分のペースがなかなか保てませんからね。どんなに調子よく書いていても、やはり家事を優先させなければいけないですし……。
 理想の環境は、静寂。音や声に過敏に反応してしまうので、極力音のない状態で書きたいです。後は、とにかくまとまった時間が欲しい、かな。

 ――まとまった時間が取られないのは、どなたも多かれ少なかれ抱えている悩みでしょう。快調な執筆が雑事で中断されたあとなど、テンションの高まりをどのように呼び戻しているんですか。

mayu-ge 書いているうちにテンションが上がっていくタイプなので、これといった手段はありません。上がらなければ数行で挫折。さっさと諦めます。

 ――潔いですね。では逆に、時間はあるけど、なかなか執筆意欲が湧かないときは?

mayu-ge 逃亡(笑)。まったく関係のない本やゲームに逃げます。

 ――これまたハッキリしてますな。では、いよいよ執筆そのものに踏み込みます。着想から脱稿までのプロセスを順を追って教えていただきましょう。
 着想を得るときはどんなときですか。

mayu-ge 就寝前や入浴中など、ぼんやりと一人で物思いに耽るときが多いです。なかなかこれといったものが浮かばない時は、ヒントになるキーワードはないかと思って辞書を捲るときもあります。

 ――キーワード?

mayu-ge 頭に引っかかってきた言葉を、とりあえず書き並べるんです。「復讐」「異端」「剣士」「湖」「詩人」……などなど。
 それらを思いつくままにつなげていくうちに、話の枠が出来上がっていく感じです。

 ――着想の基本はキーワードですか。

mayu-ge その時によって違いますね。辞書を捲った場合は、ひとつの単語に反応して、そこからじわじわと想像を広げていくというパターンです。登場人物の名前のときもあるし、テーマの時もあります。

 ――構成はどのように固めてゆきますか。

mayu-ge 基本は箇条書きですが、自分の頭の中で整理して書いていくうちに、ものすごく鮮明なイメージが浮かび上がってくる時もあります。その場合は、まるごと使えそうなくらい詳細な文章で書いています。

 ――では、構成にかなり忠実に従うということですか。

mayu-ge 一応、従うようにはしていますが、絶対というわけではありません。結果として良いものを書けるのであれば、おおいに無視しても構わないと思っています。
 大まかな構成を決めたら、見切り発車で書き始めます。あまり固めすぎると逆に発想の妨げになるかもしれないと思いますので、できるかぎり柔軟に対応できるようにしています。

 ――「見切り発車で」とおっしゃいましたが、世界観はすでに出来上がっているんでしょう? 『赤の風景』の世界は、冒頭から自然にイメージできましたよ。

mayu-ge 町の風景や人々の習慣などを描写する時には、ネットや図書館で調べて、一応の裏づけをとってから文章にするように心がけています。
 例えば、建物の素材になる石の種類、宝石の持つ意味、武器の名称など。想像だけで書かないようにしています。
 異世界ファンタジーの場合、そういった物をすべて自分で創り上げても問題はないと思います。ですが、何もかも書き手の設定となると、読者にかかる負担が大きくなってしまうでしょう。設定や予備知識を読まなくても物語を楽しめる文章を書きたいと考えていますので、ある程度、実際の物や知識を織り交ぜるようにしています。

 ――だからなんですね。謎がとけました。
 キャラクターの瑞々しさもmayu-ge作品の特徴なんですが、人物造形には時間をかけていらっしゃるんでしょう? 構成は変更できても、人物の性格を途中で変えるわけにはいきませんもんねえ。

mayu-ge まずは、性別と年齢などの基本的な事、それから物語の流れに合うように性格を決めます。
 性格については、主要人物でなくてもできるだけ細かく設定します。ちょっとした仕草や言葉遣いなども、性格を決めておけばごく自然に動いてくれますから。
 当然の事かもしれないですが、気をつけているのはキャラクターの色が重ならないようにする事。台詞だけ読んでも、誰のものか分かるように心がけています。

 ――これが意外にむずかしいものなんですよ。ついつい地の文に逃げちゃったりしてね。性格をきちんときめておけば、やっぱり自然に動いてくれるものなんですか。

mayu-ge 基本的に細かい会話や行動は登場人物任せにしていますが、やはり性格を細かく決めている人物ほど勝手に動きだしてくれます。そういう場面を後で読み返してみると、すごく自然で活き活きしていたりするので、嬉しくなりますね。
 具体的に挙げると、サイトに掲載している『黄昏人』の主役二人です。特に物語の後半は、目的を与えておけば後は勝手にやりとりをしてくれるような状態だったので、書いている本人が一番楽しんでました。

 ――これも書き手にしか得られない醍醐味ですな。mayu-geさんにとって、リアリティとは何ですか。

mayu-ge キャラクターが生きている「世界」がきちんと存在する事です。
 街の様子、食べ物、人間関係、服装、風習、言葉、気候など。
 ストーリーが一風変わったものであっても、しっかりとした世界があれば話全体にリアリティが生まれると思います。

 ――リアリティのためにもっとも大切なのは?

mayu-ge 表現力。ひとつの事象を無理なく映像に置き換えられる詳細な表現。ただし、説明っぽくなってしまうと面白くないので、その辺りの匙加減はとても難しいと思います。読むと同時に「綺麗」「美味しそう」「辛そう」といったイメージが浮かび上がるような文章が書ければ最高なのですが。

 ――文体も大きな要素になりますか。

mayu-ge 物語の舞台によって変えます。
 中国や日本などアジアのイメージで書いているときは、できるかぎりカタカナを使わず古風な堅い言い回しを用います。中世ヨーロッパ風であれば、詩のような文章にしたり、優雅な雰囲気になるように柔らかい表現を使ったりします。

 ――なるほど。すべては文章に還元されるわけですね。mayu-geさんにとって、理想の文章とはどのようなものですか。

mayu-ge 読み進めると自然に映像が浮かんできて、読者が抵抗なく世界に入り込める文章。余分な肉をそぎ落とした文章。

 ――まさに文章の理想像ですね。文章やジャンルを含めて、影響を受けた作家はいますか。

mayu-ge 栗本薫先生の『グイン・サーガ』の影響は非常に大きいです。異世界ファンタジーに傾倒するきっかけとなりました。
 高校の時に友人に借りたのがきっかけで、はまってしまって。その時点で、すでにかなりの巻数が出ていたのですが、迷わず一気に買い込みました。段ボール箱で本が届いて、親が呆れていたのを覚えています。今にして思えば、恐ろしい大人買いですね(笑)。自分の家と実家にある本棚の半分以上は、グインで埋まっています。
 最近では、上橋菜穂子先生の『守り人』シリーズ。とにかく読みやすくて面白くて、ぐいぐい話に引き込まれていきます。それまでは、難しい表現や凝った言い回しを使えば作品の質が上がるという錯覚があったのですが、そんな思い込みを一瞬で取り去ってくれました。児童文学って凄いなあと思った本。
 現在の私の理想の文章です。

 ――長い筆歴から紡がれた言葉は、さすがにずしっときますね。脱稿したときの気分はいかがですか。「やったあ!」ですか、「まだまだ」ですか。

mayu-ge 素直に嬉しいと思う反面、ちょっと寂しくもあります。自分の手から離れていってしまうという寂しさ、ですね。
 子離れが出来ない親に似ているかも(笑)。

 ――そう思われる作品というのは幸せですよ。特に苦労した作品というのはありますか。

mayu-ge 『終わりの食卓』です。初めて書き上げた現代物ですが、本当に苦労しました。「もうええわい!」と本気で投げ出したくなった作品です。
 とにかく話がまとめられなくて、初稿では自分でも何を書きたいのか分からない状態でした。とりあえず書いて提出してみたものの、案の定手厳しい評価をいただきまして……。

 ――そうでしたっけ?

mayu-ge そうですよ。精神的に脆いんで、ちょっとした事ですぐに落ち込んでしまうんです。で、すっぱりと投げ出したい気持ちと、こうなったら絶対に良い作品に仕上げてやる、という気持ちがせめぎ合う中で書いたのが、第二稿です。
 一種、開き直りともいえる発想で挑んだのですが、結果としてそれが良かったのかもしれないですね。
 初めてにしては、納得できる仕上がりになりました。


〈その4〉 書くことが楽しければ大丈夫

 ――第二稿にかけてに精度の高まりはすばらしかった。構成・物語とも整理されて、無駄が削ぎ落とされていて、登場人物の心理が浮き彫りになりました。「自分ならどうする?」と思いながら読みました。浮いた話のない身だけに、かなりサスペンス(笑)。
 では、自信作のお話が出ましたので、Web Publishing AZUSAライブラリー収蔵作品について著者に訊け! とまいりましょう。ここからはネタばれ続出ですので、未読の方はご注意ください。
 まず、『赤の風景』から。脱稿後、実感したことなどあれば教えてください。

mayu-ge サイトで連載していた『黄昏人』から派生した話なのですが、自分の作り出した世界を少し広げる事ができたという満足感を得られました。
 異世界ファンタジーを書くにあたっては、物語よりまず先に「世界」を造らないと話しになりませんが、それを育てられるかどうかは自分次第だと思います。今回、この作品を書くことで、自分の世界にもきちんと時間が流れて人々が暮らしていると改めて確認できました。

 ――村の日常がリアルでした。やさしい両親を残して旅に出ていいのか、ダレイの親不孝者! という気がしたくらい(笑)。一方で、ダレイの道行きも気になりました。
 いま読んで、手直ししたいところとかありますか。

mayu-ge 文章がぎくしゃくしている部分が多いです。「ここは、こうした方が雰囲気出るのに」とか「同じ表現が続けて出ているので、もう少し言い方を変えれば良かった」と言った所が多々あります。
 物語全体としては、セバス先生の心の部分をもう少し盛り込めば良かったかな、と思います。彼は、書いているうちに思った以上に味のある人物になりましたので、あの扱いではちょっと勿体無かったですね。
 あと、幻になってからのサヤの台詞が、いかにも理屈っぽい説明になってしまいました。もっと自然な会話に出来れば良かったんですが……。

 ――厳しい作者ですな。では、『終わりの食卓』について。書き終えて実感したことは?

mayu-ge 今までにない文章を書く苦しみと、大きな達成感。
 最終稿を書き終えた瞬間の「できた!」という感動は、今まで味わった事のないものでした。自分の周りにあったジャンルの壁を壊してくれて、もっといろんなものに挑戦したいという貪欲さを与えてくれた作品です。

 ――作者自身による註文は?

mayu-ge 涼介と沙紀が最後の車内でお互いの能力に感づく場面が、ちょっと強引かも。
 といっても、手直しができるとなると、また七転八倒の苦しみを味わいそうなので、やっぱりそのままでいいです(笑)。
 あと、優子の視点を入れたら一味違った雰囲気になったかもしれないですね。

 ――どうでしょうか。物語と枚数がぴたりと合ってますからね。優子の視点を入れるとすると、中篇くらいにして、事件も増やすことになるでしょう。沙紀の過去などへの言及も必要でしょうしね。
 両作品に共通する課題はありますか。

mayu-ge 『赤の風景』『終わりの食卓』ともに一番に指摘されたのが、「ご都合主義」。これはもう、自分にとっては永遠の課題です。
 気づかないうちに自分を甘やかしてしまうようで……。
 指摘をされて以降、できるだけ話が安易な方向に流されて行かないように気をつけていますが、正直、まだまだ修行が足りません。

 ――これだけシビアに分析できれば大丈夫ですよ。
 ではお待ちかね。収蔵作品のPRをお願いします。

mayu-ge 『赤の風景』:吟遊詩人と魔術師が作り出す幻想的な風景を、少年の心を通して楽しんでいただければ嬉しいです。
『終わりの食卓』:とにかく重くてドロドロな内容ですが、ぜひ最後まで読んでみてください。損はしない……と思います。

 ――損はしません! 未読のかたは、ぜひ!
 創作に対する姿勢などを伺ってきましたが、今度は、書き手と読み手の視点から、オンライン文藝について語っていただきます。
 オンライン文藝の現状をどのようにご覧になっていますか。

mayu-ge 特に憂えるような状況ではないと思います。書く側も読む側もとにかく手軽に楽しめますし。
 私もいろんなサイトを訪問して小説を読んでいますが、中学生や高校生の書き手が多いのに驚きますね。私が小説を書き始めた頃は、考えられなかった事ですから、今の若い人たちはつくづく恵まれているなあと感じます。
 多くの人に読んでもらうことによって鍛えられていきますし、未来の作家たちを育てる場所になっているのではないでしょうか。
 ただ、手軽であるがゆえに、基本的なマナーや知識が不十分な方も少なからずいらっしゃいます。著作権などのトラブルが多いのも事実ですから、それらをしっかりと学べる環境を整えるべきだと思います。

 ――これからどうなってゆくのでしょうか。

mayu-ge それほど大きく変わっていく事はないような気はしますが……。
 いろんな目的の人がいて、作品のジャンルや質も本当に様々。その中から自分が面白いと思える作品と出会って、新しい交流が始まって、感想をやりとりして……。
 恐らく、ずっと繰り返されると思います。それがオンライン文芸の醍醐味と言えるのではないでしょうか。
 オンラインならではの書き手と読み手の距離の近さは、ずっと変わらずにいて欲しいです。

 ――ほかの作者の作品を読むとき、最初に着目する点はどこですか。

mayu-ge 登場人物ですね。キャラクターに感情移入して読むことが多いので、それができる人物が見当たらないと、なかなか読み進められません。

 ――小説でも映画でもお芝居でもコミックでも、物語というものはそういうものですよね。
 小説を書いてみようかな、と考えているかたへ一言お願いします。

mayu-ge 思ったこと、感じたことをとにかく書いてください。最初は形なんて気にせず、上手く書こうなんて思わずに。
 書き続けているうちに、もっと多くの言葉を使いたい、的確な表現がしたいといった欲は必ず出てきますから、文章作法や表現方法などは自然と勉強できます。
 書くことが楽しい、と思えることが一番大切です。

 ――では、最後に。苦労も多く時間もかかる創作ですが、書くことは、mayu-geさんに何をもたらしてくれますか。

mayu-ge 毎日を乗り越えていく力。
 現実から一度逃避して、そこでキャラクターたちと一緒に泣いたり笑ったり暴れたりすることで、また頑張ろうという気持ちになれます。
「よっしゃ、明日も頑張って来い」と背中を押してもらってますね。

 ――ほかに、これだけは言っておきたい、ということがあれば。

mayu-ge 日頃からあまり饒舌な方ではないですし、いろんな事を十分に言わせていただいたと思いますから、特にこれ以上は……。
 自分自身をあらためて見直す良い機会になりました。ありがとうございます。

 ――本日は、長時間にわたってお付き合いくださり、本当にありがとうございました。ご健筆をお祈りいたします。





mayu-geさんの座右の銘は、「継続こそ力なり」。静かな話しぶりながら、創作のよろこび、情熱が伝わってきました。
現在、「道」をテーマにした新作の構成を終えられたばかり。長篇小説への意欲を燃やしていらっしゃるようです。課題は? とお聞きすると、「今の段階では、そこまで見えていません。書きながらたくさん出てくると思いますので、一つ一つきちんと向き合いたいと思います。」という言葉。
一作ごとに大きく成長を遂げるmayu-geさんのこれからが楽しみです。


Web Publishing AZUSA (C)2003-2017 All rights reserved.
「著者に訊け!」トップへ