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第16回
「どんな些細なことも見落とさないこと」

ゲスト/水沢 彰 さん
著作/『神憑き』 『うつろい うつろう このせつな』 『蒼波の果て』


今回のお客さまは、通信教室を満了なさった水沢 彰さんです。
第一回課題作品『神憑き』から、そのレベルの高さには驚かされどおし。いろんな謎に包まれた水沢さんの実像に迫ります。

事前リサーチと取材をもとに構成しております。


〈その1〉 コンクールが創作活動のきっかけに

Web Publishing AZUSA(以下、――) 当団体のサービスをご利用になる方々は、たいていご自分のウェブサイトをお持ちなんですが、水沢さんの場合は――。

水沢 開店休業状態なんですよ。

 ――あ、そういうことでしたか。作品の傾向などの情報が事前にまったく得られなかったので、最初は緊張しましたよ。といっても、通信教室のやりとりは作品についてのみでしたから、今だって水沢さんの人となりはまったくわからないんですけどね。
 そういうわけで、まずは水沢さんの人物像についていろいろお聞きします。筆歴は何年ほどですか?

水沢 書きはじめたのは中学のころで、編集委員会が主催するコンクールに投稿するために書いたのが、きっかけです。その頃から書き続けているので、筆歴は12、3年ぐらいになります。

 ――コンクール狙いという動機がいいですね。作品の発表はかないましたか。

水沢 出品作品が、コンクールの作品集に掲載されました。

 ――やりましたね。自分の作品が多くの人の目に触れるというのは励みになりますよね。コンクール以降にも発表の場はあったんですか。

水沢 中学の時は文芸部にいたので、そのころ書いた小説が部の作品集にのっています。

 ――反応は?

水沢 どちらも反応はなかったと思います。思い返してみてもあまり記憶がないので。一応手元に作品集はありますが、しまい込んでしまっているので、あまり見ることはないですね。

 ――しかし、今までずっと書きつづけておられる。コンクール狙いは単なるきっかけで、やっぱり書くのが好きなんですね。

水沢 小説のほかにも詩や歌詞を書くことがありますが、ひとつの世界や瞬間を生み出す快感を与えてくれます。書けなくて辛いときもありますが、そういったものも含めて、書くことは気持ちがいいです。

 ――しんどいときも含めてっていうのがいいなあ。文藝以外の創作活動とかしてらっしゃいます?

水沢 フラワーアレンジメントをしています。四季の移ろいを感じることができるのが魅力です。あと空間の使い方も。花の活け方しだいで作品が違ってくるので、それを学ぶのはとても楽しいですね。花に限らず、街中でのディスプレイに注目するようになりました。


〈その2〉 執筆環境に音楽は欠かせない

 ――おぼろげながら水沢さんの姿が見えてきたような気がします。さて、どんどん具体的に迫ってまいりましょう! 読者の期待度が高い、執筆環境についてお話しください。まずはお使いのマシンについてお願いします。

水沢 パソコンはSony VaioのPCG-C1MR、プリンターはエプソンのカラリオPM-950Cです。

 ――ソフトは?

水沢 「一太郎」です。

 ――ほお。日本で生まれたワープロだから使いやすいと聞きますが。

水沢 ワープロ専用機を使っていたときは付属の「オアシス」を使っていました。パソコンで書くようになってからは、ワードを使っていましたが、最近一太郎にのりかえました。これといった理由はないのですが、ワードよりは使いやすいかな、と思って。

 ――やっぱり使いやすいですか?

水沢 可もなく不可もなく、といったところです。

 ――最初からノートパソコンだったんですか。

水沢 ノートパソコンを使う前はデスクトップパソコンを使っていたのですが、ハードディスクが壊れてしまって、データがすべて消えてしまいました。

 ――あちゃー。

水沢 なんとかデータだけでも復旧できないかと思ったのですが、どうにもならなくてショックを受けたことを覚えています。それからはなるべくバックアップをとるようにしています。

 ――ハードディスクのクラッシュ。データがぱあ。このインタビューで何度聞いたことか。読者のみなさんもお気をつけください。
 では、気分を変えましょう。水沢さんにとって理想の執筆環境とは?

水沢 ノートパソコンが使えて、音楽が聴ける場所ならどこでもいいです。

 ――それだけ? 音楽は執筆に不可欠なものですか。

水沢 書いている小説には「この曲がはまる!」というのがあるので、それを聴いて書いていく場面を想像するとテンションが高まりますよ。

 ――初めて聞きます、その方法。まさに十人十色。音楽を聴いても書く気がおきないときはどうしてるんですか。

水沢 何もしないのが一番です。少しやる気がでてきたら、小説のネタ探しをします。おもしろそうなネタが浮かぶと、書きたくなってくるので。

 ――ネタはどういうときに浮かぶんですか。

水沢 旅行先でなにかを見たり聞いたりしたときや、音楽を聴いているとき、あとは、誰かの一言から。不意に思い浮かぶときもあります。

 ――それはストーリー? テーマ?

水沢 あるワンシーンが思い浮かびます。テーマやストーリーという明確な形ではないので、シーンでのキャラクターの科白を書き留めたり、科白がないときは、そのキャラクターの特徴や、置かれている状況をまとめたりします。


〈その3〉 構成ですべてが決まる

 ――これまでの3作品を拝見すると、取材もきっちりなさってるようですが……。

水沢 実際に存在する場所を登場させる場合、行ける状況であれば、現地に行きます。実際に見たりすることができない場合は、インターネットや書籍で必要な情報を集めます。想像の産物でないかぎり、小説に登場する物と事象は実世界に存在するものなので、書くことができる状態にもってこれるまで調べるようにしています。

 ――やっぱり。そして、構成を固めていく、と。

水沢 そうですね。どんな構成にするかを決めたら、登場人物それぞれの心情をトレースします。登場人物の心情や状態から更に構成を変えていく、というのを繰り返して、構成をフィックスさせます。

 ――慎重で手堅い。メモも細かくとっていくんでしょう。

水沢 大まかな構成については箇条書きにして、登場する各シーンについてはポイントを文章にまとめます。

 ――アウトラインづくりのお手本を見るようです。そこまでやったらあとは一気呵成。ほとんど構成の変更はないんでしょ?

水沢 構成がきちっとしていれば、決めたとおりになると思います。構成と大幅に変わってしまう場合は、構成から見直す必要があるときなのだと思っています。

 ――では、物語のもうひとつの要素、登場人物の作り方についてお願いします。

水沢 構成を考えているときに、どんなキャラクターにするか決めていきます。性別や年齢はあらかじめ決めておきますが、それ以外については構成と合わせて考えます。

 ――もう少し詳しくお願いします。キャラクターが勝手に動くとしたら、執筆時よりも構成を練っているときというわけですか。

水沢 勝手に動く、と言えるのかどうかわからないのですが、構成を決めるときはほとんどそうなのではないかと思います。構成ではストーリーの骨子を決めてから、各シーンについてまとめていくのですが、ほとんど登場人物任せになります。そこでの登場人物の動きによって、構成を変えたりすることもあります。

 ――構成に対するこだわりというか執念というか、並々ならぬものがありますね。他人の作品を読むときも、やはり構成に注目しますか。

水沢 どんな構成になっているのか気になりますね。構成がどう読み手に伝わるのか、というのを考えながら話の流れをみていくのは、よい勉強になります。

 ――技術論のようになってきましたが、水沢さんのどの作品も人間がきっちり描かれています。決して、技巧だけに流れない。創作の芯の部分に、人間を描くのだという確かなものをお持ちだと感じるんですが、どなたかの影響なんでしょうか。

水沢 宮沢賢治や谷川俊太郎、高村光太郎といった、詩を書かれるかたです。詩というそんなに長くない文章の中で、ひとつの物語やシーン、人の感情や考え、心の叫びが描かれています。そういったところが好きで、学校の国語の授業の中でも詩はけっこう覚えています。好きなものに関しては、無意識に影響を受けているのではないかと思っています。


〈その4〉 “気づき”の軌跡

 ――好きなものの影響を受ける、そしてテクニックを磨く。鬼に金棒ですな。
 では、いよいよ自作を語っていただきましょうか。ここからはネタばれ続出ですので、未読の方はご注意ください。
 まずは、『神憑き』からお願いします。

水沢 人が読むと言うことを強く意識して書きました。
 受講してから最初の作品ということもありましたが、以前は自己満足していた部分が強かったので、それを打破しようと思っていました。そのためにも、資料集めに力を入れました。作品全体を通して風景描写や雰囲気は描けたと思ったのですが、言葉の使い方でいくつか指摘を受けました。指摘をうけなければ気付けなかったと思います。

 ――「人が読む」、つまり読者の目を意識するということですよね。これまではあまり意識してこなかったということですか?

水沢 これは通信教室で大きく変わりました。以前は作品を客観的に見ることができずにいました。書いて読んでみて自分が満足できればそれでよし、という感じで。そういったところを指摘されてからは、いかに人に自分の思っていることや感じていることを伝えられるか、ということを考えるようになりました。

 ――なるほど。

水沢 人が読むことを考えて書くことはできてきたと思うのですが、リアリティを持たせるという課題が生まれました。

 ――次から次に、創作の神髄ともいえる課題が出てきますね。水沢さんにとって、リアリティとは何ですか。

水沢 描かれる世界や登場人物が生きているかどうか、だと思います。この世界に当然のようにあるものが、小説の中の世界にもあり、現実の世界で人が喜んだり苦しんだりすることを、登場人物も同じように感じること。それがリアリティにつながるのではないでしょうか。

 ――うーん、深い。では、リアリティを出すために必要なのは?

水沢 どんな些細なことも見落とさないことです。

 ――現実世界に対する観察眼、物語世界へのシビアな視線、が大切だということですね。では、『うつろい うつろう このせつな』について。特に思い入れのある作品だそうですね。

水沢 今までこういった作風のものを書いたことがなかったのと、テーマがはっきりしていないうちに書き出してしまったということがあり、書き上げるのにひどく苦労した作品でした。そのぶん、通信教室で書いた中では一番好きな作品になっていますね。

 ――楽屋裏が見えちゃったら失敗なんですが、作品からは、ご苦労がまったく伝わってきません。書き終えたときの手応えはいかがでしたか。

水沢 テーマをはっきりさせて、それをちゃんと構成に反映させてから書き出すことの必要性を学びました。
 自分ではちゃんと構成が決まっていると思っていても、実際書いてみるとそうではなくて。書き終わってみてから読んでみると、なにか物足りないという状態でした。講評ではそのあたりをずばりと指摘されました。客観的に作品を見ることができていなかったので、こんな状態になってしまったのだと思います。どんな構成であれば、登場人物を生かすことができるのか。それを考えることの大切さを学びました。
 あとは、こういった作品をあまり書いたことがなかったので、作品を書き上げること自体が課題でした。苦手意識もあったせいか、初稿を書き上げるまでかなり時間がかかりました。構成の件もあって、かなりの修正が必要だったので第二稿を書くときはどうしようかと思いましたが、反面、挑むような気持ちも強くありました。どうしたらよくなるか、と。結果として、今の最終稿となりました。

 ――いい話でした。桜の季節に読みたい一作です。書き上げたときは、「やったー!」という気持だったでしょ、やっぱり。

水沢 どの作品もそうなんですが、書き上がった達成感や開放感はあるのですが、不安が大きいですね。ストーリーや登場人物を描ききれたのか、読者にどう伝わるか、というので、どきどきしてます。

 ――水沢さんほどの書き手でもそういうものなんですか? ちょっと意外です。
 では、通信教室最終課題作品『蒼波の果て』についてお願いします。

水沢 ご都合主義をどう排除するかが課題でした。
 この作品は、既に死んでいる涼子が登場します。涼子が願いを叶えるその瞬間までを描いているのですが、死んでいるのに目の前にいるという非常識な状態をどのようにわからせていくか、そこへゆく課程を無理なく進めるにはどうしたらよいか。それらに重点をおいて構成を考えました。しかし初稿では、書いたと思っていたところが書けていなくて、講評をいただいてからようやく気づくという有様でした。客観的な目が必要だと、ひしひし感じました。
 第二稿では、ご都合主義を排除する一環として、和也に「涼子が消えてしまうまでの時間を決めてしまった」という罪の意識を背負ってもらおうと考えました。人であれば何かしらを背負いながら生きているので、それがリアリティにつながるだろうと思ったのです。
 この作品では、構成をしっかり立てて、それが読者に伝わったときの快感を味わいました。

 ――せつない話なんですが、不思議な明るさがありますね。現地取材が迫力とリアリティを醸し出していました。
 3作とも作風がまったく異なりますね。あえて変えたんですか。

水沢 通信教室で3作品書くことはわかっていたので、今まで書いたことのないような作風でやろうと思っていました。自分のやりやすい作風でやってもよかったのですが、せっかく講評をいただけるチャンスなのに、もったいないと思って。

 ――ひとつの作風を洗練していくという方もいれば、水沢さんのように自分への挑戦の機会ととらえる方もいらっしゃる。どちらも王道ですな。

水沢 作風を変えるといっても、どうしてもやりやすいほうへ流されてしまいそうになるので、課題の第一、二回にキーワードが設定されていたのはよかったです。『神憑き』はやりやすいテーマですが、『うつろい うつろう このせつな』は苦手としているテーマでした。『うつろい うつろう このせつな』は書き上げるまでかなり苦しみましたが、今では挑戦してよかったと思っています。

 ――それを聞いてしまっては、桜の季節まで待てません(笑)。これからまた読ませていただきます。
 3作品とも、これからまた手を入れたい部分ってありますか?

水沢 ちょっとだけ(笑)。まず、『神憑き』ですが、壮太の喰らった物の怪が、その体から溢れてしまったことを誘導するための伏線となる部分です。はっきりと、物の怪が溢れてしまうから、と菊が口にしていたほうがよかったのでは、と思います。

 ――なるほど。たしかにね。

水沢 『うつろい うつろう このせつな』については、まず、タイトルを変えたいですね。この作品は初稿と第二稿でかなり構成が変わっています。第二稿でテーマがよりはっきりしたので、その段階でタイトルをつけたかったです。

 ――これだ! という題名があったらおっしゃってください。ライブラリーを修正します。ここがデジタルデータのありがたいところです。ご遠慮なく、どうぞ。

水沢 タイトルのほかは、テニスの描写です。テニスを趣味にしておられる方に読んでいただいたのですが、おかしい部分があると言われて。でも、直すにはもっとテニスについて勉強しないといけません。

 ――書いて終わり、ではない姿勢に頭が下がります。作品も読者も幸せですよ。『蒼波の果て』については?

水沢 この作品に関しては、特にありません。

 ――では、作品のPRをお願いします。
 第一回課題作品『神憑き』。

水沢 では、帯コピー風に(笑)。「文明開化の明治時代、暗闇には物の怪がひっそりと息づいていた。まるでその存在を誇示するように悪さをする物の怪。そんな物の怪たちを鎮めるのは、神憑きと呼ばれる存在だった」。
 明治という時の中、神憑きであることの哀しみや見守る人たちの暖かさ。それぞれが生きようとする姿を見ていただけたら、と思います。

 ――第二回課題作品『うつろい うつろう このせつな』。

水沢 「ピアノを弾くことが好きだったはずなのに、今は弾くことすら苦しい。なんのために弾いているのか、わからない。ピアノの音の曇りは、そんな透の心をそのまま現していた。忘れかけてしまっていた、ピアノを弾き始めたときの気持ち。それに気づかせてくれたのは、ピアノのことなんかなにも知らない高校生だった」。
  迷ったり苦しんだりしながらも、自分のしたいことを見つめ続けていく真摯な姿をご覧ください。

 ――ライブラリーの帯コピーが負けちゃってますよ、これは(笑)。最終課題作品『蒼波の果て』。

水沢 「兄の婚約者である涼子に呼び出されて和也がやってきたのは高知。二人で向かったのは足摺岬だった。夕日の沈む太平洋を望む岬で、明らかになる真実。そしてやってくる最後の瞬間」。
  最後の時、愛する人にどんな一言をつげますか? 哀しくも、そのなかにある幸せな瞬間を感じてください。

 ――すばらしい! 著者自ら考えてくださいまして、ありがとうございます。
 では、最後にオンライン小説についてお聞きします。現状をどのようにご覧になっていますか。

水沢 多くの作品を手軽に読めるので嬉しい限りですね。ただ、手軽なぶん、玉石混淆というか……。探す楽しみもあるのですが、ときどき「うーん」と唸ってしまうときもあります。

 ――石にばかり当たってると、読者としては不安になりますよね。玉はないんじゃないか……とか。でも、玉にぶつかったときの喜びはひとしおです。手軽にできるぶん、表現の可能性の広がりを感じることはありませんか?

水沢 いろいろな形で作品を見せていけるのではないか、と考えています。小説ひとつをとっても、小説の雰囲気にあわせて背景をいれたり、効果的に文字の色やレイアウトを変えたり、音楽をつけているところもあります。やりすぎて、これはちょっとというところも見受けますが、作者の意志を伝えるためのさまざまな手段を提供していけるのではないでしょうか。

 ――では、その可能性の海に、小説という舟で漕ぎ出そうとしている方にひとこと。

水沢 とにかく書きだしてみてください。そして、書くことの楽しさを味わってほしいです。

 ――最後に、ご自身の展望をお聞かせください。

水沢 いろんなところへ出掛けて見聞を広げたいです。まずは日本国内、行ったことのない都道府県をなくしたいですね。あとはいろんなことにチャレンジし続けていきたいです。時間がとれないからといって、できることをしないままにしたくないと、このごろ感じています。

 ――本日は長時間にわたってありがとうございました。ますますの精進とご健筆をお祈りいたします。

水沢 こちらこそ、ありがとうございました。





語り口の穏やかさからは想像できないほど、水沢さんは熱いものを秘めておられました。プライベートでのトラブルや悩み事は小説の糧になりうるので執筆の障害とは言い切れない、ときっぱり。この心構え、見習いたいものです。

さて、ここまで読んでくださった方に、水沢流文章錬磨術を特別公開。
「トレーニングと言えるかどうかわからないのですが、書いた文章を声に出して読む、ということをしています。ちょっと不自然に感じる文章を声に出して読んでみると、かなり違和感があります。文章を修正して、声に出して読んでも違和感がなければ、目で読んでもすらっと読めます」

さあ、今日から実践あるのみですよ!


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