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2005年クリスマススペシャル 原稿用紙換算37枚 全文一挙掲載!
第15回
「三者三様の意味合いをもつ物語を、ひとつの短篇に」

ゲスト/黒川 瑞英 さん
著作/『はね』


今回のゲストは、異色ファンタジー『はね』をお書きになった黒川瑞英さんです。
いろんな要素がこれでもかと詰め込まれているのにもかかわらず、イメージがすっきりと伝わってくるという離れ業を成し遂げた筆力の持主。ようやくお話をうかがうチャンスに恵まれました。
『はね』のお話を中心に、創作についてたっぷりと語っていただきますので、ネタばれは必至。『はね』未読の方はご注意ください!

事前リサーチと取材をもとに構成しております。


〈その1〉 その世界のリアリティを持った物語を目指す

Web Publishing AZUSA(以下、――) 年の瀬というのにややこしいことをお願いして恐縮しております。ようこそいらっしゃいました。

黒川 こんにちは。しかし、わたしの話なんかでいいんですか?

 ――何をおっしゃいますやら。『はね』は、いろんな意味で印象的な作品でしたから、とても気になってたんですよ。もう著者に訊け、と。

黒川 いろんな意味で?

 ――初稿から決定稿までお付き合いさせていただいたわけですが、第二稿以降の精度の飛躍的な高まりには驚かされました。黒川さんに何があったのか? 初稿の完成はいつでしたか。

黒川 初稿は大学時代に書きました。

 ――どれくらいかかりました?

黒川 確か一週間くらいで集中して書き上げたと思います。書き出す前に構想を練っていた期間は、思い出せません。なにしろ、もう何年も前のことなので……。

 ――初稿ならではの粗さはありましたが、テーマはしっかり伝わってきましたよ。

黒川 恐ろしいことに、当時は「まあまあ、うまく書けたんじゃん?」と自己満足していました。

 ――自己満足じゃありませんよ。「とても」ではなくて、「まあまあ」と分析なさるくらいだから。
 どのあたりが、うまく書けた部分でしたか。

黒川 当時は、「結末を明かにしない、読者によって取り方の違う、ぼかした物語」を描こうとする傾向にあったため、読者にまかせきりの乱暴な書き方になっていることに気がつかず、むしろうまく書けたと勘違いしていました……。

 ―― 一度は通る道ですね。でも、これって、ぼかし方のあんばいが難しいんですよね。苦労されたでしょう?

黒川 読み返してみると、いまいちインパクトがない。でも、何が原因なのか、自分ではわかっていませんでした。町に無数の青い羽根が舞い降り、青い羽根の下でイノが死ぬシーンはお気に入りだったんですが……。

 ――あのシーンは美しゅうございました。

黒川 どうして、そして一体誰が青い羽根を降らせているのか、という疑問が浮かんできたので、第二稿以降、ボツにしました。

 ――ぼかすことの限界?

黒川 ぼかしたイメージを書くのではなく、ファンタジーであってもその世界のリアリティを持った物語を目指すことにしました。エリンとイノは未来をみる者として、一つ一つのセリフを大切に、あまり無責任な適当なセリフをしゃべらせないように努めました。

 ――なるほど。黒川さんにとってリアリティとは?

黒川 舞台が現実世界であれ、異世界であれ、そこに登場する人々が「自分」をきちんと持って行動したり、話したりしていることです――なんて偉そうに言って、これが難しいんですけどね。あとは、文章を読んだだけですっと映像が浮かんでくるような情景描写でしょうか。

 ――黒川さんの作品は実に映像的ですよね。イメージが自然に立ち上がります。イノの死の場面についても、初稿は、始めにイメージありきという感じでしたが、第二稿では、美しいだけではなく、余韻まで計算されていました。“おさまり”のよさは絶品でした。

黒川 別の形で綺麗に描けないかと頭を悩ませた結果、第二稿の時点で、決定稿のようになりました。

 ――それにしても、第二稿からの飛躍はすごかった。アプローチの方法をどのように変えたのですか。

黒川 シリーズにする前提があって書き込んでいなかった部分もあったので、いつ書けるかもわからないシリーズ作品のことは一旦忘れて、『はね』の物語だけを考えることに集中しました。それによって、シリーズでみると主人公はロアンになるところを、割り切ってエリンが主人公の物語にできました。ぼんやり三人の話を書いていた初稿に比べて、視点をエリン一人にしぼったことで、物語がはっきりしてきたと思います。

 ――狙いどおりですね。均衡がぴしりととれた、という印象を受けました。書き込むべき部分、そうでない部分の吟味がシビアになされているというか……。

黒川 欲張りすぎてあれもこれも書きたくなり、まとまらなくなるのが問題点、という自覚はあります。書き込まなさすぎ・書き込みすぎの加減も課題でしょうか。

 ――欲張る、というのはストーリーテリングの基本ですよ。それがうまくコントロールできると、『はね』のような作品が生まれるんですな。
 さきほど、シリーズが前提とかおっしゃていましたが、これ、シリーズになるんですか。

黒川 そもそも、『はね』は密かに『青の棺』シリーズの一作だったりするのです。でも、わたしのサイトをご覧になった方はご存じの通り、シリーズと銘打ちながら、現状は『はね』一作しかないんですよね。いつお目見えするやらわかりませんが、短篇三部構成で「青の棺・本篇」という構想だけは数年前からあります。


〈その2〉 メモは書き残しません

 ――おお! ぜひ書いてくださいよ。と勝手なことを申し上げていますが、そうそう自由にならないのが社会人。やっぱりお仕事が?

黒川 仕事が忙しい!! コレにつきます。社会人になって執筆時間がなかなかとれず、学生時代のように集中して書き上げるのが難しくなりました。一か月くらい仕事から解放されたいです。

 ――では、このへんで学生時代を懐かしんでいただきましょうか。創作活動はいつ頃から?

黒川 小説を書き出したのは、中学一年くらいからです。当時書いていたのは、異世界ファンタジーがほとんどでした。中学校がつまらなかったので、幻想の世界に逃避したわけです。筆歴は10年くらいですね。

 ――これまで、ご自身のサイト以外で作品を発表されたこととかありますか。

黒川 はい。大学で1年間だけ文芸部に在籍していたので、不定期に発行されていた部誌に小説を載せていただいてました。

 ――反響は?

黒川 手厳しい批判を受けました。今でも十分未熟者ですが、当時はもっとひどかったものですから。

 ――「小説なんか、やめじゃい!」とならずに、現在に至るまで書きつづけておられるのが立派。継続は力なり、ですな。で、当時の作品を読むことはできますか。

黒川 現在でも鑑賞可能なのは、サイトの短篇リストにある『コピー』という作品だけです。ほかの作品については、オンラインに出すには危険すぎる完成度の低さゆえ、フロッピーに閉じこめてあります。

 ――いつか日の目を見せてやってくだい。
 ところで、黒川さんのウェブサイト「とおの館」を拝見しますと、イラストも描いてらっしゃいますね。ほかにトライしたい創作分野はありますか?

黒川 「音楽!」とか格好良く答えたいところなんですが、ひどい音痴なもので、ダメですね(笑)。

 ――楽器が弾けなくても、自称音痴でも大丈夫なものがあります。その日からノリノリで演奏できる、すごいものが。

黒川 ……?

 ――エア・ギターですよ! わたしなんかこれ一筋、レパートリーは20曲を超えます。最近は、エア・ドラムス、エア・キーボードにも手を広げてたりして。

黒川 ………。

 ――失礼しました。話を戻しまして、創作に関してもうすこし踏み込んだことをお聞きします。
 アイデアはどんなときに浮かぶんですか?

黒川 一人でぼーっとしているときに、ぽっと浮かんでくることが多いです。ネタ探しに躍起になっているときのほうが、かえって何も思いつかないんです。

 ――あ、なんとなくわかります。考えてなさそうでも、実は脳というものはずっと働いているもんなんでしょうね。ふっと集中を解いたときにひらめくことってよくありますよ。

黒川 あとは、スケッチブックに絵を描いているときに、不意に浮かんできたりもしますね。テーマ、ストーリーに限らず、キャラやセリフが先に浮かんでくることもあります。

 ――ほお。ますます映像的ですね。で、その場でメモメモ、と。

黒川 小説を書く者としてはまずいんでしょうが、ほとんど頭の中であれこれ考えているだけで、紙に書き残したりしないんですよ。なので、けっこう忘れてしまってますね。たまにメモをとってあると、後から見つけて「なんだっけ?」と首をひねったり(笑)。

 ――もったいない! しかし、そう思うのは部外者だからかもしれませんね。メモを残しておかなくても忘れないアイデアが本物なんでしょう。メモをとらないというのは、一種のフィルターかも。
 執筆はどのように進めていくんですか。

黒川 物語の発端からある程度までの展開を決めてから、あとは小説の神様まかせで執筆をスタートさせてしまいます。だから、小説の神様が降臨してくれないと行き詰まります(笑)。物語の終わり方を何通りかイメージして、書いていく中でどれにするか決めることもありますね。

 ――なるほど、その手がありましたか。多くの方がそうだと思うんですが、結末はひとつだけに絞りがちですもんね。結末に至る道を複数用意して、すんなり進めるほうにシフトしていうというのは、賢明なやり方ですね。目からウロコです。となると、構成のメモはきっちりしたものが必要になりませんか。

黒川 短篇は、頭の中で流れを考えつつ、そのまま書き出してしまいます。
 長篇は、そのときによってさまざまです。大まかな流れとポイントになるセリフだけを書き留めることもあれば、年表を作成することもあります。異世界ファンタジーはコッソリ地図まで描いていたりしますが、作者本人にしかわからない大ざっぱな地図なため、もちろん非公開です。

 ――やっぱりやってらっしゃるんだ。結末を複数用意しているくらいですから、構成は忠実に守るんでしょう?

黒川 絶対ではありません。執筆途中で良いアイデアが浮かんでくれば、そちらを優先します。

 ――それは、資料をたっぷり準備しているからこそできることでしょう。

黒川 題材にもよりますね。異世界ファンタジーを書くときは、本当に適当です。ごめんなさい。
 いろいろ勉強しなくてはと思ってはいるんですけど、毎回「今回だけは、許してくれ」の繰り返しです。同じファンタジーでも現実世界が舞台のときは、本やインターネットで付け焼き刃的に調べたりします。暗殺者が主人公の『Red Ink』は怪しげな暗殺術の本を読んでみましたが、その成果がちっとも現れていないですよね……。本棚に暗殺術の本があるなんて、絶対に悪いことできないです。

 ――暗殺術の教本のある本棚。シブいじゃないですか。
 では、いよいよ気になるキャラクター造形について教えてください。

黒川 書き始める前に、性格・年齢・性別・職業程度は考えます。あとは、セリフの書き分けがありますので、言葉遣いをどうするかを決めますね。
 わたしは本当に気まぐれなので、身長や服の好みまで細かく固めるときもあります。自分しか見ないキャラ設定資料集ですね。

 ――地図を描いたり、キャラ設定資料集を作ったり……。外枠をそれだけ作り込めば、あとは勝手に登場人物が動いてくれるんじゃありませんか?

黒川 はい。掌篇の『クリスマス』と『一日遅れのクリスマス』なんかは、まさにキャラが勝手に動いて作り上げた話です。主人公2人の姿が浮かんだあとに、もう勢いだけで書いてました。わたし自身はプロットもろくに考えていなくて、キャラに勝手に書いてもらった感じです。長篇でも調子がいいときは、キャラが勝手に動いてくれて、わたしはその記録係となってタイプを進めていくだけ、なんてこともあります。

 ――ほお。登場人物が勝手に動くという現象は、このインタビューに登場してくださった方もよくおっしゃってます。作品からは窺い知れない創作の神秘なんでしょうね。
 逆に、書き上げるのに苦労した作品はあるんですか。

黒川 短篇『死界』です。キリリクで書いたのですが、リクエストしていただいた条件が3つほどあって、それをうまく練り込んだ話がどうしてもできあがらず、頭を悩ませました。せっかくリクエストしていただいたのに、いいお話にできなくて申し訳なかったです。


〈その3〉 執筆デーはカーテン閉めっぱなし

 ――書く気がどうもおきない、というときはどうしてますか。

黒川 書く気がおきないときは、書かないです。映画を観にいったり、読書にふけったり、ラクガキしたり、とにかくほかのことをします。

 ――で、気がつけばキーボードを打ってるとか?

黒川 それはありませんね。やはり、テンションを高めるというか、頭を小説モードに切り替えないと書けないです。

 ――創作の妨げになるのは何ですか。

黒川 いろいろ実生活のことを考えながら書くとロクな文章になりません。

 ――理想の執筆環境とは? 遠慮しないでどんどん言っちゃってください。

黒川 時間がたっぷりあって、なおかつ誰にも邪魔されない空間で好きな音楽でも聞きながら、執筆できれば素晴らしいですね。大学四年生の秋頃がちょうどそんな感じで、さくさく執筆が進んだんです。執筆以外の何かに追われて区切られた時間の中で焦りながら書くのは、頭の切り替えが大変ですし。

 ――そこが悩みですよね。日頃、執筆時に特別なことをしたりしますか? お香をたいたり、部屋に施錠したりするする方もいるようですが。

黒川 執筆デーはカーテンを閉めっぱなしです。どんなに良いお天気だろうがカーテン閉めっぱなし!!

 ――えっ? なんだかアンタッチャブルな領域に踏み込んでしまったような気が……。聞いていいのかな……なぜカーテンを?

黒川 PCが窓際に置いてあるんですよ。カーテンを閉めっぱなしにしないと、モニタに日光があたって見えないです。

 ――なんだ、そういうことですか。暗殺術に続いてブードゥーのお話でも出るんじゃないかと身構えてしまいました。では、マシンの話題ついでに、創作に関するPC環境についてもお聞かせください。

黒川 パソコン本体はFMV DESKPOWER CE177Bです。モニタは富士通製のブラウン管です。キーボードもマウスも富士通製。パソコンを買い換えた際、よくわからなかったのでセットで購入したんです。プリンタはエプソンのPM-870C、スキャナはキヤノンのCanoScanLiDE30、タブレットはWACOMのを使っています。

 ――あのかっちょいいイラスト群はタブレットから生み出されていましたか。それにしてもパソコンのセット購入とは豪儀ですな。

黒川 そんなことないですよ。以前使っていたノートパソコンが、OSがWindows98だったこともあり、フリーズと強制終了の嵐でした。しかもビジー状態になって、電源ボタンを長押ししても電源が切れませんでした。書き途中のレポートのデータなどを何度も失い、結局パソコンを買い換えました……。

 ――やっぱり豪儀じゃないですか。お使いのソフトは何ですか。

黒川 主にMicrosoft Wordです。文字の変換でイライラした記憶がありますが、ATOKを入れてから楽になりましたね。変換に手間取って筆が止まってしまうことが格段に少なくなりました。初めからオンラインに出そうと決めている小説は、メモ帳で書くこともあります。

 ――ATOKはいいですよね。わたしもATOK14をずっと使ってます。最初からWORDだったんですか?

黒川 高校生のとき、ちらっと一太郎を使って書いたことがあります。単に、父親のパソコンに一太郎が入っていたからなんですけど。大学に入って自分のパソコンを持ってからは、もっぱらMicrosoft Wordです。大学のレポートを書くのにも使いますし、小説を書くのとソフトに慣れるのとが同時にできるという安易な理由からでした。

 ――私にも思い当たることが……。以前、パソコンに乗り換えるか、ワープロ専用機を使い続けるかという選択肢にぶつかったんですが、30秒考えてパソコンを取りました。仕事に使えばハードとソフトが同時にマスターできるぜ、という安易な理由でね。振り返ると大正解でした。
 ところで、黒川さんのサイト歴はどれくらいなんですか。

黒川 大学の友人との交流用にガイアックス系のフリースペースでホームページを作ったのが、初めて持ったサイトでした。しばらくして、デザインを自分の好きなように変えたくなり、ガイアックス系を卒業して、メモ帳でタグ打ちして作り始めました。それが「とおの館」です。

 ――コンテンツに変化はありましたか。

黒川 ありません。小説と日記がメインです。小説を下げるのであれば、サイト名を変更して出直すでしょうから、「とおの館」の名である限り小説メインでいくつもりです。

 ――小説だけでなく、イラストや写真もありますね。それぞれの反応はいかがですか。

黒川 小説は感想や批評をいただきます、絵や写真はオフラインの友人たちにコメントをもらえるくらいですね。小説メインで、そのメインすら更新が停滞している状況では、ほかのコンテンツに反応がないのも仕方ないです。管理人失格です……。

 ――まあまあ、そんなこと言わずに。ぼちぼちいきましょうよ。

黒川 最近ちっとも更新していないのでサイト運営を継続できているとは言い難いんですが、更新できないから即閉鎖にしなくてもいいんじゃないかという楽天的な思考のもとに、今まできています。また時間的に余裕ができたら更新しますのでよろしくと言い続けて、そのままでごめんなさい。

 ――その心意気ですよ。このインタビューにおいでくださったみなさんも同じようなことをおっしゃってました。
 それにしても、小説の感想というものは格別でしょうね。

黒川 小説へのコメントはもちろんうれしいですが、何気なく書いている日記に相づち程度――そうですね、とか――でもコメントをいただけると、サイトを続けていこうという力がわいてきますね。最初にサイト上で連載を始めたときに、一話更新するたびに感想をくださった方がいて、とても励みになりましたし、何よりうれしかったですね。

 ――見てる人はきちんと見てるもんですって。
 オンラインならではのメリットをあげるとしたら?

黒川 誰でも気軽に自分の作品を発表できる場があるのは、素敵なことだと思います。執筆から装丁――タイトルバナーや目次、壁紙など――までを自分ひとりで納得のいくまで作りこめるのも、オンラインの利点ではないでしょうか。作者のイメージするBGMを流したりもできますし、紙媒体とは一味違った面白さがあると思います。

 ――なるほど。マルチな表現の可能性ですな。オンライン文芸そのものに関してはいかがでしょうか。

黒川 星の数ほどあるテキストサイトの中で輝き続けなければ、読者は離れていきますよね。ネットは顔の見えない交流ですが、反応はリアルに返ってきますから。輝き続けるのは、なかなか大変ですよね。
 たくさんの方に読んでもらいたいならば、やはりそれなりのものを書かなければならないんですよね。オンライン文芸は楽しく書いていきたいものですが、その辺りで重圧に苦しめられるのは避けられないわけで、サイトの数が増えれば増えるほど生き残りが厳しい世界になっていくような気がします。すでに生存競争に負けているわたしが言ってもなんですけど……。

 ――なに言ってるんですか。あれだけの作品群をアップしておきながら。では、星の数ほどあるサイトの運営者の方々へひとこと。

黒川 煮詰まることもあるけれど、投げ出したくなることもあるけれど、サイト閉鎖なんて言わずに、頑張りましょう!


〈その4〉 何度も同じ表現を使わないようにすること

 ――元気じゃないですか。その意気ですよ。
 それにしても、「たくさんの方に読んでもらいたいならば、やはりそれなりのものを書かなければならない」という覚悟は立派です。見られること、読まれることを意識しないと洗練、向上はありませんからね。サイト運営によって、創作に対する意識が変化したという実感はありますか?

黒川 本当に執筆を始めたばかりのころは、誰かに読んで貰う前提で書いてはいなかったこともあり、自分が満足できればいいという書き方でした。今は、少しでも読者が退屈しない・先を読みたくなる書き方を模索し続けています。

 ――心がけのトップは?

黒川 何度も同じ表現を使わないようにすることと、魅せる場面を作れるように心がけています。

 ――そういった意識の変化は、他の方の作品に接するときにも反映してますか。

黒川 いいヤツはいいヤツに書けてるか、嫌なヤツは嫌なヤツに書けているかをチェックします。わたし自身、嫌なヤツという設定なのに、試行錯誤している内にキャラを気に入ってしまって、とことん嫌なヤツに書ききれないことがあるからです。

 ――人物造形をチェックするとは、さすがです。小説は、人間を描くことが大前提ですからね。
 ちなみに影響を受けるほどお好きな作品、作家のお名前は?

黒川 乙一先生の『夏と花火と私の死体』や貴志祐介先生の『黒い家』など、読後に気味悪さが残るような小説が大好きなので、自分自身も不気味な場面を書くときは一生懸命恐ろしい演出に頭をひねるようになりました。
『十二国』シリーズの小野不由美先生や、漫画『BASARA』の田村由美先生からも、大きく影響を受けていると思います。主人公だけでなくその周りの人物も生き生きとして心が強いのには圧倒されますし、憧れます。
 巧いけれど、それが鼻につくことがなく、読者を物語にぐいぐい引き込んでいく文章がわたしの理想です。恐怖に身がすくんだり、切なすぎたりして、次のページをめくりたくないのに続きを読まずにはいられない文章なんかも、目指すところですね。

 ――その思いは、『はね』からも十分伝わってきますよ。過不足なく人間も描かれていました。今回はエリンが主役でしたが、イノやロアンそれぞれが主役の物語も面白そうですが……。

黒川 イノが組織にいたころの話や、ロアンのキアロ時代――『はね』作中で、エリンが図書館で写真を見つけた、英雄としての彼――の話などを書いてみたいですね。

 ――そうですよ、もったいないですよ、これだけのネタを。それにしても、実にぜいたくな作品でした。濃密なんだけど、暑苦しくない。時間を自在に操った作者の力量に負うところなんでしょう。

黒川 起きた事件は一つだけれど、そのとらえ方や影響は個人によってさまざまだということは現実にもよくありますよね。それをファンタジーの世界で書くのはどうだろうかと思い始めたんです。
 占いの町の火事は、エリンにとっては大きな転機で、イノにとっては終点。そしてロアンにとっては、長い人生の中でほんの一瞬でしかなくて、ともすればただの通過点でしかなかったかもしれない時間。三者三様の意味合いをもつ物語を、短篇に凝縮したかった……と、偉そうに言ってみたり。

 ――こういうお話を聞けるのが、このインタビューの楽しみ。もう一回、じっくり読ませていただきます。
 さきほど、同じ表現は避けるということをおっしゃいましたが、手持ちのことばが狭いとそれも難しいと思います。参考までに、黒川さんがお使いの辞書を教えてください。

黒川 『広辞苑』(岩波書店)、『三省堂国語辞典』『新明解国語辞典』(三省堂)、旺文社の『標準漢和辞典』などです。『新明解』は例文が面白いことで有名ですよね。意味を調べるより、読んで楽しんでます。
 あ、それにもう一冊。『日本の色辞典』(紫紅社)は、創作のイメージに彩りを加えてくれますし、行き詰まったときの癒しにもなります。一冊お手元にいかがでしょうか(笑)。

 ――では、作者ご自身から『はね』のPRをお願いします。

黒川 心理的なやりとりが多い物語で派手なバトルシーンなどはありませんし、名前がカタカナなのを我慢していただけるなら、ファンタジーが苦手な方でも読めるかもしれません。ファンタジーがお好きな方もお嫌いな方も、お気軽に読んでいただけるとうれしいです。

 ――約57枚ですから、みなさんお気軽に何度でも! 最後に、これから創作を始めようかと考えている方にメッセージをお願いします。

黒川 書いてみようと思ったら、尻込みせずに書いてみましょう。最初から完結作品にできなくてもいいんです。一文でも書いてみることが大事です。そして気がつけば、執筆にはまっているかもしれないですよ。

 ――本日は、長時間にわたってありがとうございました。『青の棺』三部作、気長にお待ちしています。

黒川 長らくおつき合いくださり、ありがとうございました。





インタビューこぼれ話をひとつ。
どんな小説を書いているのかはご存じないけれど、創作に打ち込む黒川さんを、ご家族は温かく見守っておられるそうです。突然、「頑張ってね」とA4用紙を何百枚と買ってきてくださったことがあるとか。

ええ話や。思わず目頭が……。
もうすでに理想の執筆環境は手に入れているじゃありませんか、黒川さん。
社会人としての経験が、今後の創作にどのように影響していくのでしょうか。今からひじょうに楽しみです。


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