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第9回
「ネットがダメなら、現地があるさ」

ゲスト/高島 芙美(たかしま・ふみ)さん
著作/『グランドスラム』


今回のゲストは、スポーツ小説と絵画小説を巧みにミックスした小品『グランドスラム』をお書きになった高島芙美さんです。

身重ということで、当コーナー初の電話取材と相成りました。お顔が見えないぶん、ボディランゲージ命の私にとって電話でのインタビューは緊張するものです。特に、体育会系作家ならなおのこと。ボケがすべらないように気をつけながら、さあ、ダイヤルをプッシュ!


〈その1〉 自分の読みたいものだけ書いてきた

Web Publishing AZUSA(以下、――) リードにも書いたんですが、このインタビューに体育会系の作家をお迎えするのは初めてです。お手柔らかにお願いします。

高島 体育会系なんてとんでもないです。たまたま、フレンチオープンを舞台にした小説を書いただけで……。主人公の光だって絵ばかり描いているし。

 ――でも、テニスはお好きなんでしょ?

高島 観るのは。

 ――しないんですか。

高島 しませんよ。一流プレイヤーのゲームばかり観てると、やってみようなんて気すら起きません。観ているだけで十分ですね。

 ――なるほど。だから『グランドスラム』では、観る側に徹しているわけですか。テニス選手が主人公じゃありませんもんね。

高島 でもね、観るだけでも教えられることは多いんですよ。ゲームの組み立てとか、かけひきとか、積み重ねとか。創作にも日常生活にもフィードバックしています。仕事や執筆のとき、怠け心が出そうになると、すばらしいゲームを思い出しては自分に活を入れています。

 ――やっぱ体育会系じゃないですか。

高島 カンフル剤がテニスっていうだけですってば。精神力とか根性なんていうものは信じていませんから。

 ――別に、体育会系だからどうというわけじゃないんですよ。めずらしいなあ、と。ところで、お書きになる小説のモチーフはやはりスポーツが多いんですか。

高島 いえ。スポーツを題材にしたのは『グランドスラム』が初めてです。

 ――お聞きするのが遅くなりましたが、筆歴はいかほど?

高島 結婚してからですから、4年になります。今から考えると稚拙でどうしようもないものばかりなんですが、ジャンルの幅は広かったですね。

 ――あらゆるジャンル?

高島 素養がないからSFとファンタジーはパス。読むものではなくてするものだと思うから恋愛ものもパス。ミステリーとかサスペンスが多かったように思います。あとは、勤務していた会社をモデルにした企業小説。

 ――あ、それ読みたい。たしか、高島さんは水処理エンジニアリング会社にお勤めでしたね。

高島 ひとくちで言うと、部品商社ですね。ここ数年、スーパー銭湯とか増えてきたでしょ? ああいうところの水の浄化に使う機械を取り扱っていました。いろいろあるんですよ、面白い話が。エンジニアがいろいろ話してくれるものですから、ネタには困りませんでした。

 ――ますます読みたくなってきました。どうですか、ひとつ、担当編集者制で!

高島 いろいろ差し障りがありそうだから、もう少し寝かせておきます。

 ――残念。それで、現在もいろいろな小説を?

高島 『グランドスラム』を書いているあいだ、とても楽しかったので、もう少しスポーツものを書いてみようかと思っています。

 ――題材はテニスですか。

高島 プロボクシングが気になっています。

 ――ほお。コミックでは、ボクシングものは結構ありますが、小説ではめずらしいですよね。目の付けどころがいいですよね、いつも。

高島 ボクシングはお好きですか?

 ――うーん。新しいところではマイク・タイソン。古いところではモハメッド・アリの「キンシャサの奇跡」ぐらいかな。

高島 「キンシャサの奇蹟」! 1974年でしたね。リアルタイムでご覧になったんですか?

 ――う。実際に映像を見たのは『モハメッド・アリ〜かけがいのない日々』というドキュメンタリーでした。それほど熱心なファンじゃありません。

高島 世間はそんなものでしょうね。オリンピックだってボクシングの中継はほとんどありませんしね。でも、主人公の成長物語にはぴったりだと思うんです。ランキングという実力のバロメーターと人間性が、重なるときもあれば、乖離するときもあったりして。そこにドラマがありそうだと思うんです。

 ――ボクシング小説の需要って、あるんですかね。

高島 ないでしょう。

 ――ないでしょうって……。それでも書くんですか。

高島 これまで、読みたいものを書いてきましたから。多くの人に読んでもらおうと思ったことはありません。

 ――自分が読みたいものを書く、か。このインタビューに登場いただいたミルキー・ポピンズさんも同じことをおっしゃっていました。

高島 そうでしたね。物理的に読めなくなったから、ご自身で書くようになったということでしたね。あの話には、すごく共感しました。

 ――ミルキー・ポピンズさんは、本が入手しづらくなったからという理由でしたが、高島さんは日本にいるわけだし、読みたい本は探せば見つかるんじゃないんですか。

高島 自分が読みたいものは、自分にしか書けないんですよ。

 ――あ、そうか。うっかりしてました。


〈その2〉 現地取材しかないかな、と。

高島 自分が読者であり、自分が書き手であるわけですから、どのレベルで満足すべきかというのが難しいんですよね。

 ――それって、どんどん高くなっていきませんか。

高島 上を上を見てしまいますからねえ。つまらないものを書いてしまったときなど、私ってこの程度だったのかって落ち込みますね。かといって、上限というものは確実にやってくるので、一作ごとにせめぎあいが……。

 ――技術的な壁、発想力の壁というやつですな。しかし、それがわかるだけでもたいしたもんじゃないですか。

高島 上限といっても、どの程度かはわかりませんよ。自分的にはいけてても、人から見たら、ものすごく低いところで満足しているのかもしれないし。

 ――そんなことはありませんよ。いいお話でしたし、とてもうまかった。では、いよいよ『グランドスラム』のお話をうかがいましょうか。ちょっと短いのでは、という印象を受けましたが。

高島 とりあえずは、あれで精いっぱい。習作ですから、あの枚数でいいかな、と。

 ――習作だったんですか。でも、あの物語を長篇に伸ばすのは、ちょっと無理がありませんか。

高島 もともとの構想は、ボールボーイの成長物語だったんです。ボールボーイとしてグランドスラムを達成するのはどうだろうか、という思いつきから始まったんです。

 ――ボールボーイのグランドスラム? 最優秀ボールボーイなんてのが、大会ごとにあるんですか?

高島 いえいえ。全豪、全仏、全英、全米の4大会すべてにボールボーイとして出場する日本人少年の話。

 ――おもしろそうだ。

高島 調べてみたんですが、年齢とかキャリアとかの制限がいろいろあって、それはちょっと難しいんですよ。それに、少年が開催国にいなくてはなりませんから、親はいったい何をやってる人なのかというのも問題でした。

 ――世界を股にかける貿易商?

高島 嘘くさいでしょう?

 ――ご都合主義の香りが……。

高島 年月に幅を持たせてみる手も考えたんですが、まごまごしてると大人になっちゃう。全米なら大人でもいいんですが、私は少年を書きたいんです。

 ―― 一族でグランドスラムというのは?

高島 は?

 ――曾祖父が全豪、祖父が全仏、父親が全英、主人公の少年が全米、という具合に、ボールボーイの経験があるというの。「当家の男子は一生に一度はボールボーイをすべし」という家訓があったりして。

高島 ………。

 ――失礼しました。それで、結局どうするんですか。

高島 連作しかないでしょうね。主人公は物語によって変わるけど、成長という点では連続性があるように。

 ――なるほど。もう書いてます?

高島 全仏はなんとか書けたんですが、ほかの大会の様子がいまいちわからないんですよ。ゲームそのものは衛星放送で観られるけど、ボールボーイのことまでは詳しく解説してくれませんからね。

 ――ネットでは?

高島 限界ありますね。

 ――打開策は?

高島 現地取材しかないかな、と。

 ――そこまでやる?

高島 いずれ、近いうちに。ふふふふ。

〈その3〉 ライフワークはグランドスラムのグランドスラム

 ――なんかたくらんでますな。しかし、全仏ならなんとか書けるんでしょ? 習作から先に進めないんですか。

高島 今、ちょうど『グランドスラム』の舞台になった全仏オープンをやってますから(編集部註:2004年6月4日現在)、放送を観ながらメモを取っています。加筆はそれからかな。

 ――ひょっとして、ボクシングを観るときもメモを取っているとか?

高島 まだ構想が固まっていないから、そこまでは……。

 ――こういうのを書こう、と決意してから取材にとりかかるんですか。

高島 そうですね。とりあえず、という姿勢では焦点が絞れませんから、取材は無駄になってしまいます。でも、あとでしまったと思うことも多いんですよね。「あのとき、そういうことを言ってたような気がする」とか。

 ――イライラしますよね、そういうときって。探しまくりですか?

高島 あきらめます。縁がなかったんですよ、きっと。資料はあるほうがいいけど、資料収集でエネルギーを費やしたくないというか……。以前、洋館の造りを調べてたんですよ。ネットはもちろん、図書館にもよく通って。

 ――あるわあるわ、でしょう?

高島 藤森照信さんの本をはじめ、もう膨大ですよ。ついつい読み耽ってしまって、気がついたら「あれ、何を書くつもりだったんだろ?」って。完全に魅入られてしまったんですね。ほかにも、調べていくうちに息切れしてしまったりとか。調べりゃいいというものでもありませんよね。

 ――具体的には、どの程度まで調べるんですか。

高島 疑問点が解消した段階で、調査はひとまず終了ですね。書き進めてゆくうちに疑問点が出てきたら、調査再開。資料にはひととおり目を通していますから、あたりはつけられます。

 ――取材から執筆まで間を空けてはいけないということですか。

高島 私はそう思います。何て言うのかなあ……。資料が立体的に見えるんですよね。脳のどこかがずっと緊張しているんでしょうけど、階層化したイメージとして資料が捉えられるようになるんです。脳の記憶する部分と考える部分が複雑に絡んでるんですよね、きっと。

 ――ほったらかしにすると消えてしまいますか?

高島 階層化はなくなりますね。何が書かれてあったかはおぼえてますが、どこに記されてあったかというところは曖昧になりますね。

 ――そんなもんですか。私の場合、お酒を飲むとどんな階層化であろうが、きれいさっぱり。

高島 ………。

 ――では、最後に今後の目標をお聞きしましょうか。

高島 この齢で言ってしまうのも何なんですが……。

 ――かまいませんよ。ゲストは神様ですから。遠慮なく言っちゃってください。

高島 グランドスラム小説がライフワークになりそうな予感だったりして。

 ――20代にしてライフワーク。大きく出ましたね、こりゃまた。

高島 もうすぐ二人目が生まれるもんですから、そうそう旅行にも行けません。かといって、現地に行かないとわからないことだらけでしょ。だから、気長に取り組むしかないですよ。何十年かかけて完成させようと思っています。

 ――なるほど。まあ、ネットでも少しずつボールボーイの情報も増えてゆくでしょうしね。

高島 ネットにはあまり期待していません。いろんな情報が手軽に入手できるようになりましたが、まだまだ偏りはありますよ。あらゆる情報がまんべんなくあるわけではありません。

 ――わかりますわかります。資料サイト集の「リンク文殊舘」作るときに痛感しました。広く浅くではなく、狭く深くというサイトは本当に少ない。専門知識が体系化されているサイトを発見したときは、感激しますよ。

高島 「4大大会ボールボーイ体験記」なんていうのがあればベストなんですが、そんなもの、あるわけがありません。だから、現地取材が必要なんですよ。まだ、主人には内緒なんですが、来年から5年くらいのスパンで1会場ずつ回っていこうと……。

 ――20年間で高島さんご自身がグランドスラム?

高島 ええ。まだ主人には内緒なんですけど。

 ――すごいなあ。立派なライフワークですよ。

高島 書き上げるたびにWeb Publishing AZUSAさんに見ていただきたいんですけど、大丈夫ですよね?

 ――たぶん、おそらく大丈夫かもしれないかもしれない。

高島 どっちなんですか?

 ――大丈夫です。しっかと拝見します。しかし、その間もご自身が読みたい作品を書いていくんでしょ。

高島 もちろんです。オスカー・デラ・ホーヤの6階級制覇も目前だし、ボクシング小説へのモチベーションが高まりそうな予感がします。

 ――なるほど。期待してます。本日は長時間にわたり、ありがとうございます。

高島 こちらこそ、ありがとうございました。




後日、一年後の現地取材が本決まりになったという連絡をいただきました。名目は、結婚5周年記念旅行。
といっても、ご夫婦一緒ではなく高島さん単身でという、かなり強引な“記念旅行”だそうです。旅程は、ロンドン滞在一週間。投宿先のホテルから毎朝電車で30分間揺られてロンドン南西部へ。目的地はThe All England Lawn Tennis and Croquet Club――ウィンブルドンです。

ライフワークの完成に一歩ずつ近づきつつある高島さんを応援させていただきますが、くれぐれもご家庭を大切に。豊かな作品は、穏やかな日常生活から生まれるものですから。



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