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第7回
登場人物の主体性にまかせます」
ゲスト/叶 響希(かのう・ひびき)さん
著作/『ミルキーウェイ』


今回は叶響希さんをお迎えして“2004新春スペシャル”をお届けします。

「著者に訊け!」初の一挙掲載。ボリュームは原稿用紙27枚ぶん。
景気よくどーんとまいりましょう!

事前リサーチと取材をもとに構成しております。



〈その1〉 雑誌附録CD-ROMに作品収録

Web Publishing AZUSA(以下――) 前回、前々回のゲストとも創作を始めたのは中学生のころとおっしゃってました。叶さんもやはりそれくらいのころですか。

 はい。もともと空想好きではあったのですが、文章にして表現するようになったのは、中学のころ、友人に勧められたのがきっかけです。

 ――勧められてすぐに書けましたか。

 ぜったい書けないと思いながら、いざ書き始めるとやめられなくなった、という(笑)。

 ――で、現在に至る?

 中学時代はハイペースで書いていましたが、卒業後は過去の作品に手を加える程度でした。再び書くようになったのは、就職してからです。間にブランクがあるので、創作歴は中学時代とサイトを持つようになってからの3年を合わせて6年ちょっと、というところでしょうか。

 ――読者は主にどんなかただったんですか?

 発表は意識してませんでしたね。大学ノートやルーズリーフに書き綴ったものを、まれに友人に読んでもらう程度でした。

 ――反応はいかがでしたか。

 わたしのまわりには自作小説を読んでくれるような人も少なかったし、わたしも読ませることに積極的ではなかったと思います。
 反応があっても、とくに学生のころは「読んだよ」くらいでした。

 ――書き手にとっては、ちょっとさびしいですね。

 当時はわたし自身が感想を期待していなかったというか、読んでもらうことを意識していなかったんです。完全な自己満足というやつで(笑)。誰かに読んでもらうことを意識して書くようになったのは、サイトを持つようになる少し前からです。

 ――読ませたい、という意思がサイトを生んだわけですね。書き手の気持の有無って大きいですよね。読者の反応も控えめなんてもんじゃないでしょう?

 特定のキャラクターの好き嫌いや、物語への思い入れ、作品を読んでどのようなことを感じたかなど、具体的な感想をいただけるようになりました。

 ――たまらんでしょ? ところで、ご自身のサイト以外で作品を発表されたことはありますか。

 小説の検索サイトに登録している作品はありますが、実体は自サイトなので発表とは呼べないかもしれません。

 ――うーん……。ちょっと呼べないですよね。

 強いて別のものを挙げるなら、サイトで掲載していた作品が雑誌で紹介されたことはあります。

 ――ほお! それを先に言ってくださいよ。何という雑誌ですか。

 主婦と生活社から出てる『すてきな奥さんのパソコン大好き。』でオンライン小説特集があり、そのときの附録のCD-ROMに収録されました。

 ――ヒットカウントがぐんと上がったでしょう?

 こころもちカウンタが回った程度です。それよりも、サイトの常連さまが喜んでくださったことが嬉しかったですね。

 ――ええ話や。ちなみに、作品名は?

 『遥かなる幸福の都』です。「GreenGarden」(編集部註:叶さんご自身のサイト)の「創作の庭」に置いてあります。


〈その2〉 一人称はむずかしい

 ――さっそく読ませていただきます。ところで、さきほど小説を書くようになったきっかけをお聞きしましたが、文章はどのように勉強されたんですか。

 勉強というと……国語の授業くらいでしょうか(笑)。

 ――またまた。

 漢字を使いすぎる傾向があることは自覚しているので、最近の作品では漢字を減らすようにしています。
 文章の理想は、状況や状態がわかりやすくて感情移入しやすいものだと思います。

 ――『ミルキーウェイ』は、まさしくそのとおりの文章でしたよ。もっとありませんか、心がけていることなど。

 自分だけの世界で遊ばないこと。読んでくださるかたの心に届くようなものをめざしています。
 というのも、小説らしきものを書き始めた当時は、自分が日頃抱えていて人に言えないような想いをぶつけるための創作活動でした。
 人に読んでもらう喜びを知ってからは、いかにして物語の世界や登場人物の気持に近づいてもらえるか、考えるようになりました。

 ――なるほど。では、他人の作品を読むときに気にかけている点は?

 登場人物や世界観がリアルに感じられるかどうか、です。文章がきれいでも、テーマや人間性の感じられない物語にはのめり込めません。
 また、わたしが名前を考えるのが苦手だからかもしれませんが、登場人物の個性が感じられる名前はとても好印象です。かといって無意味に凝りすぎるのも、どうかとは思いますが。

 ――おっしゃるとおりです。登場人物が浮いてしまっているものってありますよね。作者の影が感じられて、ちょっと引いてしまいますよね。
 では、ぼちぼち『ミルキーウェイ』のお話を聞かせていただきます。物語の着想はどこから得ましたか。

 わたし自身は田舎生まれで、転勤で地方都市に移り住んだ経験があります。逆のパターンの人のほうが戸惑いも大きいかもしれないという気持と、田舎の空気なら書けると思ったことがきっかけでした。

 ――いまお住まいのところは都会と言ってもいいですよね。日本のリアルな田舎を舞台に据えるというのは冒険だったと思います。不安はありませんでしたか?

 田舎を描いた作品だから受け入れられない、という不安はありませんでした。
 ただし、田舎の世界観だけに閉じてしまわないよう注意しました。
 たとえば、
・田舎の描写だけでなく都会の描写も書く
・田舎のガキ大将と都会の青年を登場させる
・田舎の風景を都会の人にもわかりやすいように描写する
などです。

 ――そういう計算があったんですね。だから、あの安定感と透明感が出せたんだ。いまおっしゃった点を押さえさえすれば、あとはすいすいと――。

 というわけにはいきませんでした。女子高生の一人称だったこともあり、主人公の視点でしか物事がわからないということがあります。
 パパやママといった大人の思惑や、主人公の客観的な印象など、読者に伝えたいことを直接的でなく会話やニュアンスで伝えないといけない点は苦労しました。

 ―― 一人称はね、それがありますね。しかし、苦労した形跡なんてまったくありませんでした。いわゆる“キャラが立つ”という状態で、みな生き生きと動き回っていましたね。モデルっています?

 主人公の性格は、他のどの作品の登場人物よりもわたしに近いのかもしれません。わたし自身、というわけでもないですけども。
 他の登場人物には具体的なモデルは存在しませんが、たとえばこんな弟が欲しいとか、こんな男の人に嫁にもらって欲しいとか(笑)、理想や憧れの中の人物ではあると思いますね。


〈その3〉 登場人物が反発する?

 ――『ミルキーウェイ』に限らず、創作全般についてお聞きします。アイデアが浮かぶのはどんなときですか。

 書いている最中が多いです。もしくは、空想世界で遊んでいるとき。

 ――空想世界で遊んでいるとき? どういうことですか。

 「あっちの世界」とでも言いますか……。空想世界でキャラクターたちと遊んでいるうちに、ふとひらめいたり、発想のヒントが飛び出したりすることがあります。

 ――キャラクターたちと遊んでいるとき……ですか。

 すみません。参考にならないうえに、危ない人のようですよね。

 ――はあ……。あ、いえいえ。それで、その発想とは、どんなかたちで? テーマですかストーリーですか。

 そのときによって違います。特定のシーンが頭の中に浮かんだり、フレーズが浮かんだりします。
 浮かんだことを端的に、ある程度の文章にして残しておくことが多いですね。会話の場合には、前後の状態も簡単に記述しておきます。

 ――着想は得た。次に構成が来ますけど。

 話の流れに沿って、短い文章を列挙します。作品にもよりますが、たいてい、話の概要とテーマを決めてから書きはじめます。細かい部分は、書いている間に固まってくることが多いです。

 ――取材なんかは?

 自分が作品世界を頭の中で構築できるようになるまで。

 ――話の概要をずっとキープしたまま書き進めるんですか。

 書いている間に違和感を感じたり、登場人物が構成に反発した場合は無理はしません。構成を無視することがあります。

 ――「登場人物が構成に反発する」、ですか。きょうはおもしろいフレーズがぽんぽん飛び出しますねえ。登場人物が勝手に動くんでしょうね。

 物語の中での位置づけが決まると、性別や性格や容姿などはわりと楽に出てきますね。
 登場人物の好き嫌いや癖や生い立ちなどが勝手に肉づけされて、わたしの中で一人の人間になります。人間になってしまったら、あとは各自が勝手に動きだします。

 ――やっぱり!

 テーマやエンディング、話のポイント以外は、登場人物が勝手に動くことはめずらしくありません。
 よほどの暴走をしない限りは、意識的に修正することもないです。登場人物の主体性にまかせて書いているので、ほぼすべての作品で勝手に動いていると思います。役者のアドリブを見守る監督のような立場かもしれません。
 そのかわり、動かなくなると梃子でも動かない頑固な登場人物もいるので大変ですが。

 ――またまた出ましたよ。「登場人物の主体性にまかせて」なんて、よく考えるとすごいことをおっしゃってますよ。『ミルキーウェイ』では、とくにどの部分なんでしょう。

 美和が大泣きするのも、裕也が絆創膏と消毒薬を抱えてきたのも、勝手に動いた結果です。祭で大地が美和の手をつかんだのも、そうだったと思います。

 ――勝手に動いて、あれですか? 小説の神様がおりてきた状態とは、このことを言うんでしょう。どういった状況でそうなるんですか。

 小説を書きはじめるとき、気持ちを静めるんです。自分の頭の中に意識をダイブさせて、物語の世界や登場人物達とシンクロさせます。シンクロが成功すると指が勝手に動き始める、という。
 自分でもどうなっているのかわかりませんが、視界ではモニタの文字を追いながら頭の中では物語の映像が浮かんでいて、それを追いかけている感じです。

 ――ものすごいドライブ感なんでしょうな。それほど物語世界にのめり込んでいると、脱稿したときの反動がきついんじゃないですか。

 ほっとするのと同時に、その世界から抜け出すことが寂しくもなります。

 ――そうでしょうね。そんな叶さんでも、書き上げるのに苦労した作品はあるでしょう、やはり。

 ちょっとだけ特別なのは、サイト掲載の作品でもっとも古い『瑠璃色の風』です。
 中学時代に原案を書いて、何度かリメイクをした後に書き上げた作品なので、思い入れだけは強いかもしれません。
 粗もかなり目立つので掲載しておくのも恥ずかしいのですが、なぜか人気投票などではこの作品のキャラクターが上位に入ります。ありがたいと思っています。

 ――かいがありましたね。さて、『ミルキーウェイ』の話に戻らせていただきます。ええっと、一人称に苦労したとおっしゃてましたが、ほかにありませんか。

 題名にも悩みました。もともと題名をつけるのはかなり苦手です。
 この題名も、実は仮としてつけていたものなのですが、それ以外に「これだ!」と思えるものが浮かばなくて、そのまま使ってしまいました。

 ――ご自身のサイトに上げたときの反応はいかがでしたか?

 それまでは広い意味でファンタジーに属する作品が多かったので、常連さまの間には多少戸惑いはあったように思います。
「タイトルにのけぞった」とか「めずらしい」とか、第一印象はさまざまのようでした。
 感想としては、「主人公の気持ちがよくわかった」と言ってもらえたのが嬉しかったです。

 ――ファンタジーを多く掲載されている叶さんにとって、この作品の位置づけは?

 ファンタジーでも現代でも、書いている側としてはあまり意識の差はありません。わたしの場合、テーマそのものはファンタジーでなくてもよい場合が多いので。
 女子高生が主人公、しかも一人称であるという意味では、普段は見せない内側を晒しているようで恥ずかしくもあります。

 ――では、ここでひとつ、作品のPRをお願いします。

 主人公は女子高生ですが、大人の視点でも楽しめる作品になったと思います。
 劇的な事件や魔法は存在しない物語ですが、主人公と一緒に田舎の空気や人の優しさを感じて、なにより楽しんでいただけたら嬉しいです。

 ――ほんとにいい作品です。「GreenGarden」で読むもよし、Web Publishing AZUSAのライブラリーからダウンロードするもよし、なんてどさくさにまぎれて宣伝したりして。


〈その4〉 理想の執筆環境とは

 ――さて、「GreenGarden」さんは2000年11月にスタートということで、まる3年たつわけですね。そのかん、いろいろあったんじゃなかろうかと思います。そのあたりをうかがいます。

 サイト開設時に気をつけたことは、各コンテンツに辿りつくまでの階層を深くしないことと、見栄えに凝りすぎないことです。

 ――見識ですね。コンテンツにもあまり変化なし?

 旅行記は後から追加したコンテンツですが、自分では変化というほど大袈裟なものではないかと。
 あくまでオリジナル小説サイトという位置づけなので、その枠から大きくはみ出した「よろずサイト」にはしたくないです。管理するのも大変ですから。

 ――無理して挫折してちゃ本末転倒ですよね。

 長続きのコツは、つらいときに無理をしないことと、ある程度は自分にノルマを与えること。バランスが大事だと思います。

 ――なるほど。「GreenGarden」さんのイメージそのままですね。季節による企画があったりするんですけど、力んではいないというのがよくわかります。
 シンプルなサイトだと、コンテンツごとの反応がはっきりするでしょう。

 コンテンツによる違いというより、読まれるかたによる違いのほうが大きいです。
 細かい感想をくださるかたはどのコンテンツに関してもそうですし、小説、旅行記、独り言など、特定のコンテンツを特に気に入ってくださっているかたは、そのコンテンツについて感想を寄せてくださいます。

 ――はああ。人による……か。

 大変ありがたいことなのですが、わたしはいただく感想はあまり多くないものの、「物語の世界をどう思ったか」「自分ならどうか」「登場人物はこんな気持ちだったと思う」など、具体的な感想をいただくことが多いです。
 とくにある作品では、投げかけたテーマに関して、予想外に多くのかたから「自分はこう思う」という反応をいただいたことがありました。
 文章は必ず人の心に届くということを再認識した出来事でした。

 ――励みになることばを教えてください。

 「おもしろかったです」ということばに、単純に勇気が出ます。どこがおもしろかったかを教えていただけると、さらに励みになります。

 ――ということで、叶さんの作品をお読みになったかたは、ぜひよろしく。
 しかし、「おもしろかったよ」というメールが来るだけでもたいしたもんだと思うんですよ。文芸サイトは、そのかず数万といわれますから、出版社主催の新人賞に当選するより競争率高いんじゃないんですか。

 新人賞の競争率とはちょっと違うような気もしますが(笑)……サイト数は多いですよね。手軽に、そして自由に自己表現できるという土壌は、とてもよいと思います。
 かならずしも文章として整っていなくても感情に響く作品や、勢いだけで爆走しているけれど面白くてしょうがない作品など、個性的な作品に出会えるのがオンラインの特徴ではないでしょうか。そこに、本屋でお行儀よく並んでいる本にはない魅力があるように思えます。

 ――それだ! 以前からもやもやとしてたことを、よくぞ言い当ててくださいました。最終的には書籍というかたちにならなければダメだ、と思いこんでいるオンライン作家のかたもまだ多いようです。オンラインは単なるステップだ、と。

 オンラインは基本的にセルフプロデュースなので、本人の努力次第で可能性は広がると思います。
 ただ、手軽さもあってテキスト系サイトはどんどん増殖傾向にあるのも事実です。自然、レベルの格差というか玉石混淆状態はさらに進むのではないでしょうか。わたし自身石ころの身なので偉そうなことは言えませんが、書き手としてはその中でいかに読者を獲得するか、読み手としてはいかに優れた作品を発掘できるか、難しくなるかもしれません。

 ――ずしっときますね。オンライン作家はもっとがんばらなきゃということでしょうか。

 明確なゴールのない道だと思うので、気がすむまで歩いていきましょう、お互いに。

 ――今度はぐっときました。これから小説を書いてみようかというかたに対してメッセージをお願いします。

 書いてみようと思えた時点で、書いてみる価値はあると思います。
 まず始めてみたら、書くことの大変さも楽しさも、きっとわかると思います。

 ――実作者ならではの実感ですねえ。
 今回は新春スペシャルということで、最後に叶さんの夢についてお聞かせ願います。まず、執筆環境について。手に入れたい理想の環境とは?

 物理的には、壁を埋め尽くすほどの本棚のある書斎があって、おおきめのデスクにパソコンが置かれている状態が理想です。大量の本に囲まれているとなんだか落ち着くし、子供の頃から書斎には憧れているので。
 状況としては、きっかり定時で仕事が終わって、毎日数時間は執筆時間を確保できることですね……。

 ――なければ書けないというものではありませんが、あるにこしたことはないという……。うーん、なにを言ってるんでしょう、わたし。
 では、展望ということではいかがでしょうか。

 いろいろなことを経験して、人間として魅力ある人になりたいです。
 それが、書くことにもつながると思うので。

 ――本日は、どうもありがとうございました。

 こちらこそ、ありがとうございました。




いやあ、すごかった。作品世界に飛び込む瞬間の感覚を、これほど客観的なことばで聞けるとは。創作を続けているかたなら、きっと思いあたることでしょう。理性と情緒、書き手と読み手という相反するものどうしのセッションからすぐれた作品が生み出されることがよくわかりました。

叶さんをはじめ、これをお読みになっているみなさんにとって、2004年がよい年でありますように心からお祈り申し上げます。



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