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第2回
「縁
(えにし)の不思議とありがたさを実感しています」
ゲスト/櫻井 公(さくらい・いさお)さん
著作/『幸福参考書 生活宇宙52話』


櫻井さんへのインタビューをまえに、筆者はかすかに緊張していました。60歳という年齢に。そして、プランナーというつかみどころのない職業にも。

現在、60歳といえばまだ老人の範疇に入らないのかもしれませんが、筆者の世代にとって、還暦をむかえた人はまぎれもなく老人です。いまのように物分りのいい老人など周囲にはいず、若い者のまえでは威張っていたものです。

ビジネスがらみならお互い、にこにこしていられるかもしれないが、これは著者の本音を引き出すインタビュー。変なこと言って怒らせたらどうしよう、という危惧もありました。ええい、ままよ! 年寄りが怖くて編集なんかやってられっか、というわけのわからない自信に支えられながら、新大阪にある事務所にお邪魔しました。




〈その1〉 プランナーってなんだろう?

Web Publishing AZUSA(以下――)うわ、きれいな事務所ですね。お一人で使ってるんですか。

櫻井 うん。もう20年になるかな。自宅の近所だと便利だから、このマンションが建ったときに買ったんだ。

 ――窓の緑もきれいだし、能率あがるでしょ。

櫻井 考え事するにはいいね。でも、ここに来るのはひさしぶり。だいたい外にいるからね。

 ――プランナーのお仕事で?

櫻井 企業のプロジェクトに参加したり、社員教育の講師をしたり、ま、いろいろですね。

 ――失礼ですが、プランナーという職業はどういったものなんですか。

櫻井 プランを立てる人。

 ――まんまじゃないですか。わたしが訊きたいのは、職業として成り立つのかどうかということなんですが……。

櫻井 これまでプランナー一本でやってきた。企画を立てるにも、技術が必要でね。……考える技術とでもいうのかな。それがあるなしじゃずいぶん結果が違うんだ。企画だけだったら2000本以上、立てた。

 ――具体的にはどんな技術なんですか。

櫻井 「Super Wave」といって、ぼくが編み出した。知的所有権は登録済み。話せば長くなるし、書き物にしたら本一冊まるごと必要だから、興味のある人は直接連絡してもらえればいいかな。ライブラリーに掲載しているぶんに連絡先を書いていたよね?

 ――ええ。この事務所の電話番号と住所が。

櫻井 「Super Wave」はあまりに専門的すぎるので、そのエッセンスを『生活宇宙52話』に書いたんだ。

 ――あれは、朝礼のネタ集ですよね。

櫻井 ほんとうに読んでくれた?

 ――も、もちろん。朝礼1年分でしょ。

櫻井 ネタじゃなくて、朝礼の原稿そのもの。

 ――プランナーって朝礼の原稿までつくるんですか。

櫻井 うーん、わからないかなあ。ある企業で企画にかんする顧問をやってたんだけど、毎週月曜が朝礼の日でね。誰かやってくれということになったんで、志願した。週1回、1年間で52回というわけ。

 ――櫻井さんご自身が話したんですか。

櫻井 うん。社員たちは優秀だったから、打てば響くようで楽しかった。

 ――大変だったでしょう。ネタがないときとかどうしました?

櫻井 そんなことはなかった。いっぺんにいくつものアイデアが湧くから、覚えをつけておいてあとで整理するだけ。苦労といえば、棒読みにならないことを心がけなくてはならなかったことくらいかな。

櫻井 公さん「プランナーといっても一般の人にはわからないだろうなあ。免許制でもないしね」


赤字太っ腹自費出版

 ――本にする話はとんとんとまとまったんですか。

櫻井 本にする気なんてなかったよ。原稿の束をクリップで留めてほったらかしにしてたら、ある日、娘に言われてね、「パパ、本にしたら?」と。

 ――ほお。

櫻井 フリーのプランナーになって10年めだったから、いい節目かもしれないと思った。

 ――で、自費出版へ。ずいぶん大判ですね。ライブラリーの底本はもっと小さいサイズでした。

櫻井 あれは文芸社からお誘いがあったので、小さくして出したの。

 ――最初のほうがいいんじゃないですか。字も大きいし、カットのタッチも鮮明だし。しかし、ずいぶん費用もかかったでしょう。大きいほうは。ええっと、定価が1560円。発行部数にもよりますけど、これは2500円以上じゃないとつらいんじゃないですか。

櫻井 元を取ろうなんて気はなかったからね。感謝の気持と、これからもよろしくという気持をこめたんだ。やるからには、ちまちましたことはやめよう、と。

 ――このカット、なかなか気が利いてますね。プロでしょ?

櫻井 やっぱりわかる? 朝礼をやってた企業に商業デザイン部門があって、そこのスタッフにお願いした。

 ――ああでもない、こうでもないと……。

櫻井 いや、どーんと任せた。いろいろ口出しされたら自由な発想なんて出ないよ。出来上がりを見て、説明を受けて、納得したらそれでOK。デザイナーならではのアイデアには驚かされた。合作みたいなものだね、あとから考えると。

 ――表紙のイラストは娘さんが担当されたとか……。軽妙なタッチですね。

櫻井 照れるね。

 ――桜井さんは原稿を整理しただけですか。

櫻井 そんなことないよ。葉っぱだってたくさん集めたし。

 ――お金に変えるために? どろん、と。
櫻井 タヌキじゃないんだから。本文のちょうど真ん中あたりに、箴言があるんだ。そこに挟み込むための枯葉。一冊、一冊、挟んでいったよ。

 ――反応はいかがでした?

櫻井 一冊の本が取り持つ縁の不思議さに圧倒されっぱなし。ここ10年、そう。


〈その2〉 読者からの手紙が宝物

櫻井 インタビューに来るっていうから、こんなものを用意したんだ。

 ――公宝箱……。“こうほうばこ”でいいんですか。 

櫻井 わたしの宝箱。公(いさお)の宝箱という意味。

 ――ああ、下のお名前から。もうひとつひねりがほしいところですね。段ボール箱いっぱいに何が詰まってるんですか。

櫻井 最初の自費出版のとき、いただいた感想とか意見とか。

『生活宇宙52話』に寄せられた読者からのお便り。これでもまだほんの一部。

 ――え、こんなに来たんですか。友人知人ばかりじゃないんでしょ?

櫻井 面識もなにもない人のほうが多いね。どきっとするよ、受け取ったときには。それをきっかけに文通がつづいているかたもいるし、社員の啓発用にと数十冊注文してくれた経営者もいる。この本を出していなければ、一生、ことばを交わすこともなかっただろうねえ。不思議なものだ。

 ――もっと不思議なのは、それだけの人がどこで桜井さんのご本を手に入れたかということです。自費出版ですから、当然、書店には並びませんよね。

櫻井 並んだんだ。大手書店の新大阪店にね。たまたま兄に店長を紹介してくれる人がいたんだ。愚弟がこんなものを、とか言いながら謹呈したらしい。その店長が気に入ってくれて、店頭に並べてくれた。

 ――すごい。

櫻井 文芸書部門で売上4位までいったと聞いてるよ。そのときの1位が石原慎太郎の『弟よ』だった。その後、浜松町店にも置いてくれたみたい。相田みつをと並べてディスプレイしてくれてね。

 ――にんじんだもの。   

櫻井 にんげんだもの、だろ。

 ――すみません。そのお便りが今回、ライブラリー掲載ぶんに入ってるわけですね。

櫻井 ごくごく一部、諒解がとれたかただけね。



アンケートを忘れて大後悔

 ――でも、もったいないですね。これだけあるのに。

櫻井 だろ? だからこんなものを作ってみたんだよ。

読後感想文集は、B4サイズ68ページ。読者のナマの声が伝わってくる。

 ――読後感想文集……ですか。コピーして製本して、こりゃまた労作ですね。ワープロで入力してまとめたほうが楽なのに。 

櫻井 筆跡をそのまま残しておきたかったんだ。伝わってくるものが違うしね。

 ――迫力はありますよね。これだけの反響があれば、作者冥利に尽きるでしょう?

櫻井 あとで、しまった! と思ったね。

 ――定価3000円、プラス消費税にしておけばよかった、と。

櫻井 そういうことじゃなくて、アンケートをとらせてもらっとけば、と気がついたんだ。プランナーのくせに、自分のこととなるとおろそかになっちゃうねえ。

 ――どんなアンケートを考えたんですか?

櫻井 52話のうち、どの話がおもしろかったかというやつ。性別、世代別、職業別、地域別など、いろんな角度から傾向を分析すれば、なにかが見えてくると思うんだ。

 ――さすがプランナーですね。ときすでに遅し、ですが。

櫻井 いや、今からでもやろうと思ってる。ところで、きみはどの話が興味深かった?

 ――ええ!?


〈その3〉 話すように書くことのむずかしさ

 ――『生活宇宙52話』はエッセイじゃありませんよね。かといって実用書でもない。

櫻井 そこが狙いだった。サブタイトルの「幸福(しあわせ)参考書」というのが、包括するテーマかな。「教科書」でもなく「指南」でもなく、「参考書」。上からものを言うような内容にはしたくなかった。朝礼でも、そこを心がけていたよ。

 ――もとは朝礼だとしても、文章化する際にはずいぶん手を入れましたか。

櫻井 それはないな。オリジナルそのまま。

 ――長年、企画書を書いてこられたわけですから、文章にも厳しい目をお持ちだと思うんですが、まったく推敲せずですか?

櫻井 企画書の文章というのは、つまるところ確信と説得につきると思うんだ。「幸福参考書」にそれはふさわしくない。だから、あえてそのままにした。よく、「話すように書け」なんて文章読本には書いてあるけど、『生活宇宙52話』では、話したままを書いたわけだから、わかりやすい文章になったとは思う。

 ――頭がこんがらがりそうです、わたし。「話したままを書いた」んじゃなくて、話すために書いたんでしょ? それを朝礼で話して、さらに文章化したんですよね。じゃあ、話すように書いてあるわけだ。ま、厳密に言うと、「話すように書け」というのは書き手の姿勢を論じたもので……、あれ、どんどん話がややこしくなってますね。

櫻井 きみがややこしくしてるんだよ。とにかく、あの本におさめたいろんな話は、話し終えたときに完成したと思う。だから、手を加えなかったんだ。 

 ――それはわかります。なおのこと、朝礼までが大変だったんじゃないんですか。

櫻井 刈り込んでいくのがね。意識していないと、いくらでも長くなるから。そういった面では多少、苦労したかな? それと、同音異義語ね。耳で聞いて同じ音だったら混乱しかねないし、誤解されるかもしれないから気をつかった。

 ――だから、読みやすかったんだ!

櫻井 どうしたの、急に?

 ――無駄がないからかな、と思ってたんですよ、読ませていただいたとき。お話を聞いてわかりました。無駄な漢字がなかったんですよね。言い換えが効いていたというか……。

櫻井 ともすれば複雑になりがちなことを、のみこみやすいことばで書くことが大切だね。言うほど簡単じゃないけれど。

 ――話すように書く、とはそういうことかもしれません。

『生活宇宙52話』。右がオリジナル版、左が文芸社版。


幸福参考書第二弾、スタート?

 ――ところで、今後のご予定はどうなっていますか。

櫻井 こんな時代だから、いろいろ考えてるよ。覚えを書きつけたノートも増えてるし、どうしたものかと思ってるんだよ。

――幸福参考書シリーズなんてどうですか。

櫻井 『生活宇宙52話』のスタイルを踏襲しようか、まったく新しいかたちにしようか迷っているところでね。

 ――新しいかたちとは、どういう……?

櫻井 選択肢が多くてね。エッセイ、実用書、論文、いろいろあるからね。

 ――本業と並行するとなると、やはりこれまでのようなスタイルが無難じゃないですか。読者もついてることだし。

櫻井 本業は大切だけど、同時に社会の役に立つこともしなければと思いはじめてる。もう還暦だから、自分にしかできないかたちで社会へのご恩返しができたらというか、そんなことを考えているんだ。出版も含めてね。

 ――それだったら幸福参考書シリーズでしょ、やっぱり。

櫻井 そお?

 ――うちのライブラリーに入れていただければ、入力から校正までぜんぶやります。もし、本として出版されるようなことになっても、ライブラリー収蔵の段階で完全データが出来ているわけですから、先方の出版社との制作費交渉もしやすくなるでしょう。

櫻井 きみ、微妙に営業してない?

 ――まさか。先のことはさておき、とにかく書かなきゃはじまりませんよ。

櫻井 書いてみようか。いろいろあるんだよ、日本の官僚のこと、少年犯罪のこと、科学と哲学のこと……まとめるのが大変だけど。ただね、“今”ということに絞りたくはないな。時事にこだわると普遍性が失われるような気がする。

 ――ネタとして古くなりますよね。

櫻井 いつの時代にも通用することを俎上にのせたいな。

 ――説教みたいになっちゃいませんかね。

櫻井 こんなことがありました、という切り口で、誰にでも思い当たるようなことから入ってもいいしね。官僚とか少年犯罪とか言ったけど、そのものずばりを論じるのではなくて、読んだあとに思い当たるというふうでいいと思う。判断は読み手にゆだねるのが、ぼくの流儀。

 ――期待してます。しかし、櫻井さんの持ち味はしっかりキープしてくださいね。お忙しいところ、ありがとうございました。

「そこの木にハトが巣をかけてね。飽きずに眺めていたよ」というほどの環境のよさ。


インタビューの3日後、櫻井さんから執筆開始の連絡をいただきました。
よく研いだ鉛筆で、チラシの裏やコピー用紙に書きつけてゆくのが櫻井さんの執筆スタイル。緑の光線が心地よい事務所で鉛筆をすべらせている櫻井さんの姿が目にうかびます。

さて、次回は関東にお住まいの作家にお話をうかがいます。現在、スケジュールの調整中です。どうぞ、お楽しみに。

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