編集部員が出払ってしまうと、編集長はひとりぼっち。電話とメールの応対の息抜きがてら、原稿のこと、ストーリーテリングのこと、キャラクターの立たたせ方など、いろんなネタを書き溜めています。

不定期ではありますが、編集長のぼやきとつぶやきをお届けします。万が一、創作のヒントになれば幸いです。


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●ポップコーンをバケツごと● 3月7日


 見ている映画に突然冷めてしまうときがあります。
 たとえばアクションもので、激しい銃撃戦が展開されているのに、薬莢ひとつ飛び出していないことに気づいたとき。
 たとえばSFもので、人間タイプのエイリアンが現れたとき。
 たとえばサスペンスもので、決して音を立ててはいけない状況と知りながら携帯電話をオフにしていなかったばかりに……などなど。

 こういうとき、自宅鑑賞というスタイルはありがたいもんです。
 早送りという未練がましいことはせず、スパッと停止。
 作り手がこんな料簡じゃ、おもしろくなりようがありませんからね。
 しかしまあ、予算の都合とか準備不足とかアイデアの枯渇とか、いろんな理由があってこうなったのかもしれません。次はもう少しがんばってくれと思いつつデータ消去してしまえば、あとくされも精神的なダメージもなし。
 そんな関係もいいもんです。

 しかし、先日、もう少しがんばれよとすら思えないミュージカル映画にぶち当たってしまいました。
 主人公は、夢を追いかける男女。男はジャズクラブオーナーになること、女は映画女優をめざしています。
 ミュージカルというには歌が少ないので、音楽映画と呼んだほうがいいのかも。
 ストーリーは添え物程度で、役者と映像と音楽で見せてくれます。
 シネマスコープのロゴが消え、渋滞中の道路でカラフルな群舞がスタートしたときはワクワクしたものです。

 主役の男女の心が通い合う決定打となるのが、待ち合わせの映画館に女が遅れて飛び込むところから、天文台のプラネタリウムまでのシークエンス。
 フィルムが焼けたことにかこつけて映画館を飛び出すというのはまだよしとしましょう。
 問題は、その前。
 すでに上映が始まっている映画館に駆け込んだ女は、あろうことかスクリーンの正面に仁王立ちになって男を探します。
 体に映像が映っていましたから、スクリーンには女のシルエットがくっきりです。

 映画好きが昂じて女優を志しているいう人間が、いくら恋に舞い上がっているからといって、これはない。アメリカ人って、映画館で人を探すときはこうしがち……でも決してない。
 物語を進めるための前提となる諒解事項が一気に崩れた瞬間でした。
 リモコンの停止ボタンの上を指がさまよいましたが、前述のとおり、役者と映像と音楽は一級品ですから、一縷の望みを持って最後まで行くことに。
 しかし、気分がふたたび盛り返すことはなく、気づけばエンドロールを見てました。

 ただし、ジャズセッションのシーンはすごかった。
 監督がいちばん描きたかったところなのかもしれません。この監督にとって、映画はジャズを描くための道具なんだろうなと思わせる、気合の入った場面でした。
 もし、このシーンがかかっているとき、スクリーンの前に誰かが仁王立ちにでもなったら、私ならポップコーンを投げつけますね。邪魔だどけ! と。
 きっとバケツごといっちゃいますよ。男だろうが女だろうが、思いっきり。





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