●2009年1月


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むやみに話を聞きにいく 1月31日


 新年早々、ある会合でデザイナーたちを前に、「インタビュー術」なるものを披露するはめになりました。
 この二十数年、いろんなかたの話を聞き、いろんな記事にしてきましが、それらを客観的に語る機会はなかった。情報交換を兼ねて、取材のエピソードを含む四方山話を仲間どうしですることはよくありますが、好奇心満々のオーディエンスに向かってというのは、ちょっと勝手がちがいますな。

 講義形式のため、基本的なことはすべて他の講師がレクチャーしてくれていたので、私は質疑応答担当という、とても気楽な立場で、取材経験ほぼゼロの若きデザイナーたちと向き合いました。

 これまで失敗したことはありますか、それはどんなときですか? という定番の質問から始まり、レコーダーは使うべきかとか、寡黙な人から話を引き出すテクニックとか、いろんな質問を受けました。
 とにかくやってみな、というほかはないのですが、それを言っちゃおしまいなわけで、いろんな事例を引っ張り出してそれなりにまとめました。
 そして最後の質問は、いちばん印象に残っている取材は何でしたか、というもの。

 これには困った。どの取材もどのインタビューも二つとして同じものはなく、時間の長短こそあれ、価値の差などはありませんからね。話してくださるだけでありがたいと思っとります。

 しかし、やはり記憶に深く残る話というものもありまして、ご本人が淡々と語るだけに余韻は深い。
 それは、ある総合病院の看護師さんに、乗り越えたいプロの壁ということを訊ねたときのこと。
「私が担当しているのは、手術を必要としない患者さんたちの病棟なんです」
 ……とおっしゃいますと?
「ターミナルケア――終末期医療です。私たちが患者さんを看取るんですが、患者さんの人生の終わりに私などが関わっていいのかと、いつも考えます。たった28年の人生経験しかない私に、患者さんのほんとうの気持がわかっているのかなって」
 それが、彼女の壁でした。時間をかけて場数を踏むことでしか越えられない壁。それがわかっていながらも、手探りをやめない彼女。
 壁というよりも、生と死、尊厳と畏怖、来し方行く末など、いろんなものが混じりあった何かなんですね。
 目の前でほほえんでいる看護師さんは、どこにでもいそうな娘さんです。だが、その気負いのない言葉には、プロの凄みというものが充ち満ちていました。

 これだから取材はやめられません。
 記事を書くという目的もさることながら、現場を知るプロの視点に驚かされたい一心です。
 さあ、今年もいろんな人に会いにいこう。胸にずんとくる話を聞きにいこう。
 センス・オブ・ワンダーを味わわせもらうために。




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