●2008年1月


「閑々随筆」トップへ バックナンバー インデックスへ




今浦島に告ぐ 1月30日


 ひさびさに長い文章を書くことになりました。原稿用紙20枚ほどの分量ならメモをちらちら見ながらなんとかまとめられるのですが、今回の仕事は約50枚。メモちらちらで書けるようなものではありません。構成の良し悪しが成否のポイントです。

 以前、長い文章を書いたときは、ポストイットを使いました。
 一枚一枚に簡単なフレーズを書き込み、項目にしたがってツリー状に貼ってゆく。項目内の細部の入れ替えも簡単だ、とよろこんでいたのも束の間、枝葉が茂ってゆくにつれ、場所は取るわ、付箋紙がカールするわ、読むのが面倒くさくなってくるわで、余計に手間がかかりました。
 しまいには、壁に貼った構成ボードを眺めながら、これが一瞬にしてテキストファイルに変換できたらと虚しく夢想したことを思い出します。

 あやまちはくりかえしませぬ。

 今回は周到に情報収集しましたよ。段取八分というのが、ここ十年来のわたしのテーマですからね。
 こうこうこういうことがしたいんだ、と周囲の者に聞くと、一瞬にして答が返ってきました。

「やっぱりアウトラインプロセッサでしょ」と。

 その存在は、二十数年前、ワープロ専用機の機能のひとつとして知っていましたよ。
 一度試してみたものの、あまりの使い勝手のわるさに投げ出してしまいました。それ以来、アイデアの階層化ができるとか、ブロック単位での入れ替えが簡単だとか、そそられるフレーズを耳にしながらも無視してきた。

 そんな苦い思い出を話すと、「いったいいつの時代の話をしているんですか鎌倉時代のOA事情ですか」と若い者にどん引きされたのは言うまでもありません。
 長文の書き手として彼の右に出る者はない、とわたしが信頼しているライターに、お勧めのアウトラインプロセッサをいくつか教えてもらいました。

「使い勝手、デザインの好き嫌いは人それぞれだから、まずは使ってみてください」
「使うのはいいけど、書いたぶんが無駄になるってことない?」
「テキストベースだし、汎用性の高いものばかりだから、ほかのソフトにエクスポートしてもデータのツリー構成は維持されます」

 わたしの頭上で60W電球がぼわんと光ったように感じました。
 うれしいことにフリーソフトだったので、さっそくダウンロード&インストール。
 ReadMeファイルなんて読み飛ばして即起動!(どこが段取八分だよ、というのは言わない約束)

 使ってゆくうちに、電球は100Wへ、さらにクリプトン電球が頭上で燦々と輝きはじめました。

 とにかく項目(ノードと呼ぶのだそうですが)をがんがん作るのがミソ。消したり階層の上下に送るのなんて瞬時なんだから。
 エディタ機能が充実しているものを使えば、ストレスなく本文そのものも同時に書き進められる。

 うーん。これは便利。50枚の記事でもかなりの恩恵が得られるのですから、もっと長いもの――長篇小説などを書くかたにとっては、小説の神様からの贈り物と思えるのではないか。
 と、昂奮しているわたしに、若い衆が助言してくれました。

「そんなこと、よそで言っちゃだめですよ」

 なるほど、知る人ぞ知る超便利ソフトなんですな。広まってしまうと価値が下がる、と。
「いや、誰でも知ってるから。今さらって感じで恥ずかしいでしょ」

 ……今浦島というわけですか。
 いいんです。この一文は、仲間の浦島さんたちに捧げるんだから。

 ビバ、アウトラインプロセッサ! 手を抜けるところは大いに抜いてまいりましょう!



「閑々随筆」トップへ バックナンバー インデックスへ
Web Publishing AZUSA (C)2003-2017  All rights reserved.