●2006年11月


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「下りるために登るんさ」 12月30日

 タイトルは、横山秀夫さんの代表作、『クライマーズ・ハイ』(文藝春秋)に登場する印象的なセリフです。
 先日、あるかたから面白い話をうかがいました。

「仕事には計画の立案が付き物ですが、仕事を登山にたとえるとすると、計画はどの地点に相当すると考えますか?

 @登山口(つまり、麓)
 A3合目
 B5合目
 C8合目
 D頂上

 あなたなら、どれ?」

 これはそのまま創作に当てはまるのではないでしょうか。「創作には構想が付き物ですが、創作を登山にたとえるとすると、構想はどの地点に相当すると考えますか?」というふうに。もちろん、この質問に正解はありません。考え方は人それぞれ、やり方も十人十色ですから。
 とはいえ、作品のボリュームによって、おのずと何合目に登るのか決まってくるのではないかと思います。30枚の掌篇、100枚の短篇、200枚の中篇、500枚の長篇には、それぞれの準備があり、その質も違うはずです。

 枚数で判断するのは大雑把かもしれませんが、300枚以上の長篇小説に挑むなら、構想は頂上付近に設定しておくほうが無難でしょう。メリハリ、キャラクター、伏線など、物語を動かす要素を完璧に把握しておけば、あとは下山するだけ。下山=執筆です。
 道は頭に入っているのですから、刻々と変わる景色を楽しむ余裕も出てきます。ときには立ち止まって野鳥のさえずりに耳を澄ましたり、ときには難所を避けて遠回りしたり……。これが、描写も含めた“語り口”ということになりましょう。

 ところが、途中まで順調だったのに、道を見失ってにっちもさっちもいかなくなることもあるかもしれない。そんなときは、頂上まで引き返せばいいことです。下山を強行したり、その場にとどまったりしていてはリスクが増すだけで、麓まで無事に帰れるかどうかわかりません。
 頂上=構想に戻れば、迷わず下山するルートをきっと見出すことができるはずです。

 山頂を極める感動、無事下山したときの達成感と充実感。創作の楽しみはこれに尽きます。
「下りるために登るんさ」。けだし名言ですな。




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