●2006年11月


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たらればロケマップ 11月29日

 わが町紹介や旅行記を思わせる、なんの変哲もないサイトでした。ちょっと写真が多いかな、というくらい。

 賢兄のご高覧を乞う、という古風な文言にURLを添えて送ってくれたのは、知り合いのライターです。文章からも察せられるように、非常に真面目で誠実な方で、私も一目おく存在です。
 ページタイトルは、「ニッポンろけまっぷ」。邦画、洋画問わず、日本における映画ロケ地の紹介が趣旨らしい。映画が好きとは聞いていたけれど、取材の合間にこんなことをしていたのかと、思わず溜息がもれました。取り上げた作品は30本あまり。労作です。
 しかし、ちょっと待った。作品リストの映画に思い当たりがないのです。聞いたこともない題名が並んでいます。しかも、ラブロマンスは一切なく、ホラー、アクション、軍事スリラーとおぼしき作品ばかり。

 試しに、『大阪攻略 天守閣を奪還せよ』という作品のページをば。
 吉本興業の芸人さん総出演のシリアスサスペンスらしい。防衛庁、警察庁全面協力らしい。ドナルド・サザーランド特別出演らしい。音楽はマイケル・ケイメンらしい。さらに、撮影監督はゴードン・ウィリスらしい。なぜか、監督、脚本、プロダクションは不明。
 大阪城天守閣に核爆弾を仕掛けたテロリストとカウンターテロチームとの死闘が描かれるそうです。これが本当なら話題騒然のはずですが、噂すら聞いたことがありません。
 しかし、ロケマップが存在するのです。しかも、写真には詳細なキャプションさえ付けられています。
 たとえば……。


●JR新大阪駅。正面に見える空港バス乗り場から最初のカーチェイスがスタートする。バスの横転・爆発という惨事を巻き起こしながら、テロリストたちは逃亡に成功。駅前の渋滞を巧みに使った名シークエンスだ。

●中之島中央公会堂。主人公・茂雄が、恋人・京香に別れを切り出すシーンが撮影された。ライトアップされた洋館の荘厳さが画面を引き締める。このあと、京香はテロリストの手中に落ちてしまうのだが……。

●大阪城天守閣。映画では寸分違わぬセットで撮影。航空自衛隊の戦闘ヘリによる機関砲とロケット弾による攻撃はミニチュアとCGの合成。ILMの実力がいかんなく発揮された。


 こんな調子で、通天閣、道頓堀、関西国際空港、海遊館などの施設はもとより、あらゆる交通機関が登場します。
 その他の作品でも、東京、四国、九州など日本各地を舞台に剣呑な事態が持ち上がります。
 編集部の連中に聞いても、みな首を傾げるばかり。もしかして、ボツ企画をどこかのルートから仕入れて紹介しているのでしょうか。謎です。そういうときこそ、管理人に訊け! ですな。

 真相は呆気ないものでした。すべて彼の創作だったのですね。こんな映画があったらいいな、公開されれば見に行きたいな、という中学生みたいな思いに衝き動かされてサイトを作ってしまったそうです。スターの画像をふんだんに使っているので、著作権法上、公開は見合わせているそうですが、それにしても人騒がせな!

 しかし、真面目で誠実なイメージで通っている彼が、そのようなボンクラ、もとい、純粋な情念を秘めているとは、驚きでもあり収穫でもありました。
 同じやるならとことん突き抜けてはいかがかと意見しました。撮影前後のエピソードを記したプロダクションノートを加えてみてはどうか、と。

 答は、「そこまでやったら変態ですよ。妄想の領域ですからね」。

 いや、もう十分いっちゃってますよ、とは口が裂けても言えません。ファンとかマニアとかいうレベルではありません。もう立派なクリエーターです。
 想像と妄想の違いは那辺にありや、と深く考えさせられながらも、『ニッポンろけまっぷ』(私の中では『たらればロケマップ』)の新作を楽しみにしている自分がいたりなんかしちゃったりして。




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