●2005年11月


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「推敲」から「編集」へ 11月28日


 作品の精度を高める必須の作業に、推敲というものがあります。語句・字句のみを対象にする方もいれば、内容まで含む方もいたりとさまざま。
 この語のもとになった故事を考えると、前者寄りかなという気がします。お約束の辞書を引いてみましょう。


すい‐こう【推敲】
[唐詩紀事四十](唐の詩人賈島カトウが「僧推月下門」の句を得たが、「推(おす)」を改めて「敲(たたく)」にしようかと迷って韓愈に問い、「敲」の字に決めたという故事) 詩文を作るのに字句をさまざまに考え練ること。

(岩波書店『広辞苑 第五版』より)


 ほらね、「字句」寄りでしょ? 「字句をさまざまに考え練」りさえすれば、作品を完璧なかたちに近づけることができるという魅力的な考えが忍び寄ってくるんですが、うっかりすると発想のダークサイドに陥りかねません。
 この雑文程度の分量なら、ことばで何とか逃げきることもできるのですが、小説はそうはいきません。表現と構成の双方をさまざまに考え練らなければならないからです。書き上げた作品の語句を見直して一丁上がり、となるならどれほど楽でしょうか。「推敲」に対する一般的な認識はそういうものだと思います。

 しかし、私たちが「担当編集者制」を通じてお付き合いさせていただいている作家の方々にとって、推敲は万能薬ではないようです。
 場面を前後入れ替えるのは当たり前。登場人物も増えたり減ったり、大きなシーンがまるごとなくなることだってよくあるケース。推すか敲くかなんかより先に悩むことがあるだろ! という気迫が伝わってきます。

 改稿にともなうこのような作業は、「編集」と呼んだほうがいいのかもしれません。初稿や創作メモを素材として扱い、より効果的に配置しなおすわけですから。
 推敲は大切なことですが、それはあくまでも書き手のこだわり。それよりも読者の目を意識した「編集」に時間とアイデアを使ったほうが、作品の質は確実に上がるようですよ。

 書き上げた作品を再構築するのは、ひどく手間がかかるものですが、物語に自信があれば、苦にはならないはず。「推敲」から「編集」へ。ちょっと高みに立つだけで、物語の長所や短所が目に飛び込んできますよ。

 編集者からのささやかなアドバイスでした。




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