●2005年10月


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既知との遭遇 10月31日


 誕生月だというのに何という忙しさでしょうか。
 書きたいことはたくさんあるのに、つごもりの日にようやく1つだけアップという体たらく。猛省を自分にうながしたい!

 はい、反省終わり。

 先日、知り合いのライターから日本語教師体験を、とあるWEBサイトに連載することになったからよろしく、というメールをもらいました。
 その方は50半ばを過ぎて身辺を整理し、NPOの団体のお世話で東南アジアの某国に赴任。1年間にわたって山村で日本語を教えていました。
 その後、都心部にしばらく滞在し、帰国したそうです。

「……そうです」なんて書いてますけど、実はまだ帰国後にお目にかかれずにいます。電話で会話すらしていません。メールでのやりとりだけ。
 その方は小説の素養もあり、異国の日本人社会を活写した小説を準備しています。その一部を読ませてもらったのですが、実体験がなければ書けない、リアルな内容に圧倒されました。
 続きが楽しみなんですが、本当に帰国してるんかいな、という思いがときおり脳裡をよぎりました。
 大阪の住所は偽りで、実は某国にいつづけながらからネットを駆使してテキストを発信しているのではないか、と。
 そういうのも恰好いいなあ、無頼派ライターという感じだなあ、と勝手に胸躍らせていたところ、そんな思いに水をかけるような目撃証言が複数寄せられました。

「梅田で見たという人に会ったよ」……第一種接近遭遇ですね。
「淀屋橋の反対側を歩いてはった」……第二種接近遭遇ときたら、
「地下鉄に乗り合わせて話をした」……第三種接近遭遇で決まり。

 帰国しているのは間違いないようです。ちょっとがっかりしましたが、無事で何より。

 そんな折り、いよいよくだんの連載が始まりました。
 最初は行きの道中の話で、写真に写っているのは市場だったり風景だったり。そしてついに――4回目でしたか、5回目でしたか――、クメール語らしきものの書かれたオブジェの脇にたたずむおっさんは、まさしく本物。

 3年近く写真を見ることも声も聞くこともなかったのに、その3年前の笑顔を目にしたとたん、空白の年月が完全にぶっ飛びました。
「おっちゃん、元気そうやねえ」
と、モニターの小さな写真に声をかけてしまいましたよ。現在の大阪でなく、異国にある姿こそ本物のような気がしたのです。

 帰国からすでに1年近くたち、目撃証言もどんどん寄せられているのですが、お目にかかろうという気はあまり起きません。会えば、異国の土産話になることは確実でしょう。
 ライターの藝は、やはり文章と写真で味わうのが筋です。連載が終わるのを待ってからでも遅くはありません。
 予告篇や作者あとがきほど興ざめなものはありませんからね。

 新聞記者というキャリアも持っているライターなので、視点は確かで文章も的確。面白くならないはずはありません。
 本人の話よりも文章のほうが楽しみ――そんな書き手になりたいものです。




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